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水底

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 人魚が半透明の長い尾びれを脚に巻き付けてくる。
水の中では人魚に及ぶ気がしなかった。
ぬるいと感じていた水は急速に温度をなくし、どんどん冷えて変色した。

 深い深い藍色にすべてが沈んでしまった。人魚が耳元でこう囁く。
「ねえ、しな子ちゃん。委ねてしまいなさいよ。もう、委ねてしまいなさいよ。
呼ぶ声はもうしないでしょう、水の中ではしないでしょう。
真千子はわたしよ、真千子もわたしよ。」

 そう言われるともうなにがなんだかわからなくなってしまった。
指先が冷えて動かなくなってきていた。
人魚の長い髪がまとわり付いてくる。
積み重ねた本や、きれいに仕舞い込んであったはずの衣類、ボールペンやはさみ、少ししかない化粧品に食器など、部屋の中のありとあらゆるものが水の中を漂い、人魚と私をとり囲んでいた。

金粉が舞い、青緑色の鱗がきらきらと光って見える。
作品名:水底 作家名:にょす