プティ ムシュ 2−3
プティ ムシュ
2
報告
「はい。特に変わったことはありません。いつもどおりですね。……いえ、そういうことはありません。現在、数人の捜査員を送り込んでいますが、誰からも異常を唱える内容はありません。……はい。引き続き調査を継続します。」
3
私がそれに気づき始めたのは終着駅に着いたあたりからだ。乗車客のほぼ全員が下車する中その車両に残ったのは私と珍妙な男、そしてその人物だけだったからだ。はじめはただの偶然だろうと気にもしていなかったのだが、やたらとこちらをちらちらと見てくるのだ。そして私がその視線に気づきその人物を見返すと、あからさまに顔を背ける。しかもその背け方というのが三流大根役者もしないのではないかというほどお粗末なもので、隣の乗客が一種異様なものを見るかのような表情をうかべていた。
『さあどうする?』
私のターゲットは珍妙な男であって、この人物ではない。今まで通り珍妙な男の動向を探るか?しかし尾行されているというのもなんだか面白くない。どうする?私はもう一度自問してから一つの結論を導き出した。
私は意を決して次の駅で下車することにした。珍妙な男の追跡劇はここで終わることにはなるが、尾行されるというこの状況はどうにも面白くない。(自分も尾行していたのだが、まぁそれは棚においておこう。)駅の改札を出てその人物が私についてこなければ、それはそれでオッケーだ。問題はそれでもついて来た場合だ。なんとかして振り切ってしまうべきなのか?なぜついて来るのかを問いただすべきなのか?どちらを選ぶかだ。乗り越し精算を済ませ改札をくぐり抜けながら、その人物がついて来ることを確認し、私は後者の選択肢を選んだ。
見知らぬ駅で下車し声をかけるタイミングを見計らうというのは意外に難しいものだ。(意外でもないか)駅前の商店街を抜け、大通りに出た私は意味もなく通り沿いを歩く。途中、何軒か中古バイクショップの前を通り、何軒かのラーメン屋を通り過ぎていった。一軒、気になった豚骨ベースのラーメン屋があったが、それはまたの機会にとっておこう。今はそれどころではないのだ。
さて、歩きながら手頃な脇道というものを探してはみたものの、なかなか見つかずイライラが募る。そして何より私を不快にさせたのは自動車の排気ガスだ。大通りということもあり交通量も多いい。よって排気ガスの量というのも相当のものである。私が普段生活している所は決して山の中とか人里離れたところというわけではない。それなりに栄えているところではあるが、自分がこうまで排気ガスというものに抵抗を感じるとは実に意外な発見だ。考えてみると尾行に気づき、見知らぬ駅で下車してから新しい発見の連続だ。尾行というのも案外されてみるものかもしれない……などと馬鹿なことを考えている場合ではない。
そうこう思考を巡らせている時だった。私が探し求めていた手頃な脇道が目の前に現れたのだ。
私はその脇道に素早く入り、身を隠せそうな場所を探した。古典的ではあるが電柱があったのでそこに身を隠すことにした。
しばらくすると予定通りその人物はやって来た。私を捜しているのだろうか、キョロキョロと辺りを見回しながらこちらの方向に向かってくるではないか。
「誰か探してるの?」
私は電柱から身を出し中学生ぐらいであろう少女に声をかけた。そう、私を尾行していたのは幼い少女だったのだ。
4
作品名:プティ ムシュ 2−3 作家名:橙家