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篠原 喧嘩9

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あまり仕事の接点というものはないのだが、若旦那の女房は、たまに、こちらの仕事場に連絡を寄越す。だいたいは、細野と若旦那絡みのスケジュールについての連絡だ。

「細野君は? 」

「留守だ。・・・・あのな、雪乃。大人気ないことしてないで、さっさと迎えに行けよ。」

 たまたま、誰もいなくて、連絡を受けたのが橘だった。そして、直球ストレートの意見を吐く。あまりにも、直球なので、前後の説明が一切ない。

「なんのこと? 」

 もちろん、若旦那の嫁は承知しているが、一応、説明は求めてくる。橘が言いたいのは、つまりは、年下のぼぉーっとした夫なんだから、喧嘩したなら、嫁が折れろ、と、言いたいのだが、小言なんぞ聞く耳は、その若旦那の女房にはない。

「若旦那、実家に逃げたんだろ? 板橋の家から、俺に、喧嘩の原因の究明しろって指示が入ったんだよ。・・ったく、なんで、俺が、おまえんとこの痴話喧嘩に巻き込まれにゃならんのだ? ああ? 」

 いろんなところから、橘に苦情が来る。普段、温厚な若旦那が優しくないという理由で、それが当人にではなく、その直属の上司への攻撃理由となるらしい。いい加減、それを黙って聞いているのも苦痛になってきた。

「無視すればいいでしょ? 」

「できねぇーよ。」

「私にもわからないんだもの、対処の仕様がないわ。」

「だから、迎えに行けって言うんだよ。あいつのことだから、ものすごーく些細なことだったりするんだぞ? それなら、雪乃が下手に出てやれば済むことだろ。」

「あなたに、命令される覚えはないわよ? 」

「命令じゃない。」

「じゃあ、従う必要はないわよね? 」

「そんな問題じゃないだろ? ていうか、わかんねぇー女だな、相変わらず。あんな不機嫌な若旦那に付き合う俺らの身にもなれ。」

 さすがに、あの不機嫌は怖い。りんもジョンも、触らぬ神に祟り無しとばかりに席を外している。細野は、びくびくしつも諦めて付き合っているが、できれば、いつもの温和な若旦那に戻って欲しいと切実に願っているだろう。橘だって、それは願っている。あれは、かなり疲れる代物だ。

「八つ当たりしてるの? 」

「そうだよ。絨毯爆撃でな。」

 橘の言葉に、えっ、と、雪乃のほうが驚く。そういうことはしないタイプだからだ。今まで八つ当たりなんてしているのを見たことはない。それは、深刻な問題だと、雪乃のほうも吐き出す。

「一体、何が原因なのかしら。」

「俺が知るかっっ。」

「これといって原因になるようなことはなかったと思うんだけど。」

「だから、あいつが、なんかにカチンとしただけだろ? そんなもん、当人しかわかんねぇーよ。なんでもいいから機嫌を直してくれ。」

 それは、あんたしかできないだろ? と、橘は締めくくった。実際問題として、夫婦喧嘩だと、若旦那が言うのだから、それを上手く収めるなら、女房にしかできないだろうということは、独り者にだって、わかる道理だ。

「それを実家の両親から言われるのは納得するけど、橘さんというのが、納得いかないところだわ。」

「・・・・だから、そんなことはどうでもいいって。なんなら、俺から板橋へ連絡入れて、向こうから言ってもらおうか? 」

「それはそれで、嫁姑問題になるわよね? 」

 なかなか、うんとは言わないのは、いつものことだが、今回は、やけにしつこい。橘と雪乃は同い年だから、その橘からの忠告というのは聞きたくないらしい。

「俺だって、おまえに、こんなこと言いたくないぞ。でも、あのバカが具合を悪くするのは目に見えているからやってんだ。そろそろ一週間だ。わかるだろ? 」

 若旦那は、その女房と離れていると具合が悪くなる。精神的な拠り所であるから、それが傍にないと、不安定になって、最後に体調を崩すのは、基本のパターンだ。それを、イヤというほど見せられている橘としては、その事態は避けたい。

「・・・・わかった・・・今夜にでも迎えに行く。」

「おう、頼むわ。」

 ま、奥様のほうも、それはよくわかっているから、橘の提案を呑む。ただ、本当に原因がわからないので、困ってはいる。


作品名:篠原 喧嘩9 作家名:篠義