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ラベンダー
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novelistID. 16841
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銀髪のアルシェ(外伝)~紅い目の悪魔(4)~

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「人の心を惑わすのは、僕の得意技の1つなの!だから任せて!」

ニバスのその言葉に、圭一がほっとした表情した。

……

一方、リュミエルはザリアベルと、埠頭で対峙していた。
ザリアベルが、リュミエルが魔界に来たのに驚いて、埠頭に移動させたのだった。

「…魔界まで、お前のような天使が来るとはな…。どれだけ危険かわかっているのか?」
「主人(マスター)が、お前を必死に呼んでいるのに、どうして姿を現さない?」
「俺にも、いろいろと事情があってな…」
「悪魔の事情か。」

ザリアベルは黙り込んだ。リュミエルは敵対心をはっきり目に表わして言った。

「マスターもアルシェもお前を信頼しているようだが、俺にはどうしても…」
「信用できないのも無理は無いだろう。…俺は…何をやっても悪魔でしかないのだからな。」

ザリアベルの自嘲的な言葉に、リュミエルは目を見開いた。

「悪いが、今はアルシェを助けてやることはできない。…どうしてもやっておかなくてはならないことがある。」

ザリアベルがそう言った時、ふと何かに気付いた。リュミエルも気づいたようである。

「…ニバスが助けたようだな。俺の出番はなしだ。」

ザリアベルはそう言うと姿を消した。リュミエルは眉をしかめ、圭一(マスター)の元へ瞬間移動した。

……

ニバスの力で、浅野のことがニュースに流れる事はなかった。
その代わりに、三知男の似顔絵がテレビに流れた。

「!?」

三知男は、自分そっくりの似顔絵がテレビに出ているのを見て、驚いて立ち上がった。

「ど、どういうことだっ!!おいっ!」

三知男が後ろにいる悪魔に振り返って言った。

「慌てるな。お前は今、顔が違うだろう。」
「!!」

三知男は、椅子に座りこんだ。

「そ、そうか…そうだったな。…良かった…。」

悪魔は口をいがめて笑ったが、すぐに表情を険しくした。

(…悪魔が天使を助けたようだな。…ザリアベルならやばい…。…そろそろ手を引くか…)

悪魔は姿を消した。

……

浅野は自宅のマンションで頭を抱えるようにして、うなだれていた。
その両側には、圭一とキャトルが浅野の背を撫でてなだめていた。

「…ニバスにお礼をしたいのに…できないなんて…」

下級悪魔のニバスは、まだ未熟な天使のキャトルとは違い、完全な天使である浅野の前には姿を見せる事はできない。

「いいの、俊介!…俊介からもらったブローチ、嬉しかったもん!」

ニバスの声が返ってきた。

「…だが、あれはリュミエルを助けてくれたお礼だ。…ニバス、またキャトルに行かせるから…今度は何が欲しい?何でも作ってやる。言ってくれ。」

浅野はそう言って、天井を仰いだ。

「もういいんだ。キャトルが僕も俊介の仲間だって言ってくれたもん!仲間は助け合うのが、当たり前じゃない!」
「ニバス…」

浅野はこぼれる涙を手で拭いながら、うなずいた。

「ありがとう…。」

圭一とキャトルは顔を見合わせて微笑んだ。

……

その夜、三知男は自分の姿が元に戻っていることに驚いていた。

「えっ!?えっ!?…どうして元に…おいっ!」

三知男が辺りを見渡しながら言った。

「悪魔、出て来いっ!!…体が元に戻ってるぞ!どうしてだっ!?」

そう叫んだが、悪魔は姿を現さなかった。
だが、声だけが返ってきた。

「お前との契約が切れたんだ。悪いな。」
「えっ!?…契約が切れたって…期日なんて書いてあったか?」
「期日は俺が飽きるまでだ。」
「!?そっそんなっ!!」
「ちょっと他におもしろい獲物を見つけたもんでね。…魂もたくさん食わせてもらったし楽しかったよ。じゃぁな。」
「待てっ!!そんな薄情なっ!!」

三知男はそう叫んだが、声が返ってくる事はなかった。

……

三知男はリビングのソファーに座って、ガタガタと震えていた。

「…捕まる…絶対に捕まる…。どうしたらいいんだ…。」

そう言うと、震えながら立ち上がった。

「捕まりたくない…刑務所なんか行きたくない…どうしたら…どうしたらいいんだ?」

三知男は下を向いたまま、うろうろとその場を歩き回った。
その時、突然、足が見えた。その足を辿ってゆっくり顔を上げると、紅い目の男が目の前にいた。両頬には長短2本ずつ傷がある。

「!!悪魔っ!?…助かった!!」

三知男はそう言った。

「そうか、助かったか。」

そう言って笑う紅い目の男に、三知男は手を合わせて「俺を刑務所に行かせないでくれっ!」といきなり言った。
紅い目の男は、眉をしかめて困ったような表情をした。
三知男は両手を合わせたまま言った。

「…刑務所以外ならどこでもいいから、俺を逃がしてくれっ!!」
「刑務所以外ならいいのか…」
「そうだっ!どこでもいいからっ!」

紅い目の男が、笑いながら言った。

「ゲームの世界はどうだ?」
「ゲームっ!?それはいいっ!そこへ連れて行ってくれ!」

三知男が飛びあがらんばかりに喜びながらそう言うと、紅い目の男が片手を広げて言った。

「「無間地獄ゲーム」へようこそ。」

突然、三知男の足元に黒い穴が開き、三知男は悲鳴と共に落ちて行った。

……

「獲物が来たぞーっ!」

その声と共に、その場に座り込んでいた三知男はゾンビの集団に囲まれた。
ゾンビ達は、各々の手に鎌やナイフのような刃物を持っている。

「えっ!?…ゲームって…!…待って!ちょっと待って!…PAUSEボタンはどこだっ!?」

三知男がそう言い、座ったまま体を退けた。
だがゾンビ達は待たずに、男に襲いかかった。
砂袋を刺すような音と共に、三知男の悲鳴が間断なく響いた。

「ひぃぃおもしれー!」

ゾンビの1人が上空を見上げて言った。他のゾンビも咆哮しながら、三知男を刺し続けている。
三知男の悲鳴はやがてすすり泣きになった。そして、とうとう三知男の声はなくなり、ゾンビ達の狂気の笑い声と砂袋を刺すような音だけが響き渡り続けた…。

……

「ザリアベル…どうしたのかな…。」

浅野は組んだ手を枕にしてソファーに寝転んだまま、そう呟いた。

(考えてみれば、俺って…ザリアベルがいなかったら、何もできないなぁ…)

浅野(アルシェ)はあくまでも天使だ。ザリアベルのように、人を裁くことなんてできるわけはないが…。

通り魔の犯人は、浅野の描いた似顔絵によって無事捕まったが、まるで同じ言葉を繰り返すロボットのように「ごめんなさい」と謝るばかりで、取り調べにならないと言う。

(ザリアベルが裁いたんだな…)

浅野はそう悟った。
だが、自分とは交信を切ったままだ。

(…ザリアベルに愛想つかされちゃったのかもしれない…。)

ふと浅野はそう思った。

(終)

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悪魔『ニバス(Nybbas)』

主な出典:「地獄の辞典」※コランド・ブランシー著 1818年初版