日の替わり
午前零時
辺りは日が落ち
停電になっているこの町で
わずかな光を求めて
人々は右往左往する
その中には
携帯の画面を開き
その十センチにも満たない
光の枠を凝視する人が
数多く見られた
彼らが求めるのは光などではない
ある時には光よりも
心の支えになる存在
そう
自分の大切な肉親や友を
彼らは探しているのだ
なかなか繋がらない携帯に
ついに腹が立った男性が
いまいましげに携帯をたたんだ
どうやら携帯で連絡することは
諦めたらしい
鉛よりも水銀よりも重くのろのろとした
足取りで向かう先には
先程用意された
手書きの情報掲示板がある
掲示板の前に立ち
係員から暗い色の
油性ペンを渡される
男性が先ずした事は
自分の探し人の情報を
書き込む事ではない
一センチの隙間も無いくらいぎっしりと
探し人の情報が書かれた掲示板
その中に
自分の探し人の残した
メッセージがあるかを
確かめる事だった
一通り見て見つからなかったらしい男性は
半分泣き顔になりながらも
震える手でペンのキャップをはずした
探し人へのメッセージとメッセージの間
その僅かな隙間に
男性は自分のメッセージを書き込む
親指一本分にも満たない隙間に
文字が潰れないよう
必死で書き込んだメッセージは
こうだった
妻と子を探しています
住所は●●●で
二人の特徴は△△△
怪我人の中にこのような
特徴をした二人を見かけた
という方がおりましたら
情報を下さい
情報を下さい
書き終えた男性は係員に付き添われながら
ゆっくりと掲示板から立ち去った
男性が立ち去ったすぐ後に
若い女性がやって来た
男性と同じように係員から
暗い色の油性ペンを
受けとった女性は
先程自分が書き込んだ
メッセージを見つけ出し
その右横に返事が
書かれているのを見つけた
そしてそのメッセージを見た女性は
そのまま何も書くこと無く
静かに立ち去った
そこに書かれていたメッセージ
女性が書いた母親の安否を
確かめるメッセージの横には
その問いの答えとして
母親の死体が既に
見つかっているという知らせが
短く事務的に書かれていた
暗闇に閉ざされる恐怖と
相次ぐ死の知らせ
無造作に起こり続ける悲劇は
確実に人々の心を疲弊させる
男も女も大人も子供も
誰もが嘆き悲しむそんな中
掲示板に残された
とある先生から生徒へのメッセージだけが
微かに
ここがまだ日常の
延長線上である事を匂わせている
●●さんへ
病院から帰ってきたら
直ちにお知らせください
成績の事でお話があります
2011.3.12 00:00
日は替わり
時は経ったが
太陽はまだ
昇る気配すら
見せてはくれないのだ