善人解錠
彼が喫茶店の中で仕事をしていると、悲鳴が聞こえて、それは痛々しいものだった。女性が白昼に店内で堂々暴行を受けている。でも誰も助けに行かない、というか行けない。店員すら動かないで震えている。まあ仕方はないことではあるけれど、自分ができるならば行けばいいじゃないか、と。
助けにいった。席を立って、その2、3人の男に飛びかかると、あっけなく倒れた。そして彼は称賛を浴びたが、彼自身は書類を作成しようと席に戻った。
そして、それを提出して、さあ遊びに行くかと思い、金を引き出そうとした。
そして目を疑った。口座が解約されている。なぜ?パソコン以外から情報は漏れるだろうか?考えてみたがロックもかけずに…席を外したことは…。
あの時か。
彼は総てを見、総てを確認し、総てを悟った。自分名義で借金が作られている。自分名義の口座はなくなっている。
そして、こういうタイミングで悪いニュースはかかってくるものである。
「もしもし」
「やあ、君か。急いで連絡しようと思ったんだが家にはいなかったから」
「なんでしょうか」
「言いづらいことなんだが…君が整理解雇の対象になってしまったんだ」
「…」
「不景気に多数の人材を抱えていられないんだろうが、君は優秀だったから解雇するのは惜しいんだが…上の判断だ」
「…そうですか」
なんてこった。借金を返す宛になるものすらないとは。彼は世の中を見回して、まあいいかとつぶやいた。
「一人の女性を救ったんだし、いいか」
そして彼は車に乗ると、そのまま崖に向かい、車ごと飛び降りた。