小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

篠原 喧嘩3

INDEX|1ページ/1ページ|

 
若旦那は、絶対に定時上がりさせることになっている。一応、ここの局員ではあるが、扱いは嘱託であって、正局員ではないからだ。

「だからって、定時きっちりに追い出されるのも、どうかと思うんですけどね。」

 設計課の打ち合わせが、白熱した結果、定時になっても終わらなかった。しかし、だ。設計課の人間は、定時になると、きっちりと、打ち合わせを止めて、若旦那を追い出しにかかる。

「別に慌ててる案件じゃないんだし、明日、もうちょっと詰めてしまえば終わる。」

「いや、だから、それなら延長してやってしまったほうが・・・・・」

「問答無用だ。」

 なかなか立ち上がらない若旦那に、設計課の曹が、椅子から抱きあげて立たせてしまう。さっさと書類を片付けて、それらを、細野に手渡してしまえば、帰り支度も完了となる。

「だからさ、もう、元気なんだって。」

「アルバイトは帰れ。」

 大怪我して復帰してからというもの、若旦那の関係者は、壊れ物を扱っているような態度だ。確かに激しい運動はできなくなったが、通常の勤務はできると、主治医にも太鼓判を押されている若旦那としては、不本意だ。

 だが、小田も曹も、あまりにも心配させられた身なので、当人が健康に戻ったと言ったところで聞く耳など持つつもりはない。嘱託であるという事実が、何よりもまず、健康に戻っていないのだということを証明しているからだ。

「篠原、帰りなさい。日勤のみという約束で復職したんだろ? 」

 そう言われてしまうと、反論が難しい。それが事実だ。しかし、大人しく引き下がるのも気が済まない。すらすらと、そこいらにあるメモ帳に、この後の打ち合わせで問題となるであろう箇所について、書きつけた。それを、小田に突き出す。

「本日の宿題です。その箇所については、設計課の提案は現状では受け付けられません。打開策がなければ、こちらからの提案のままで、お願いします。」

 横から、それを覗き込んだ曹が、うっと詰まる。それは、突かれると痛いと思っていたところばかりだった。

「おまえ、本当に機嫌が最悪なんだろ? 」

「そうです。・・・・今朝から、ずっと不機嫌なんですよ。」

「誰かに苛められたのか? 」

 不機嫌でなければ、こんな厳しい宿題は出てこない。それにしたって、こんなに当たり散らすというのは、若旦那にしては珍しい。曹が、心配から、尋ねた言葉への返事に、そこにいた全員が、唖然とした。

「いいえ、夫婦喧嘩したんです。」

「はあ? 夫婦喧嘩ぁだとぉ? 」

「おいおい、若旦那。いつの間に結婚した? ていうか、おまえ、結婚って・・・・」

「それ、明日の午後までですからね、小田さん、曹さん。よろしくお願いします。」

 結婚の事実は、あまり知られていないので、その段階で、小田も曹もびっくりだ。さらに、この温厚な借りてきた猫みたいな若旦那が夫婦喧嘩するというのが、理解できない。詳しく問いただしてみたいところだが、定時で帰れと言ってしまった手前、引き止めるわけにもいかない。

「明日、詳しく聞こうじゃないか。」

「余裕ですねぇー、小田さん。」

 宿題は、ちゃんと解答してくださいね、と、若旦那は、軽く会釈して部屋を出た。







 聞き捨てならないことを言ったぞ、と、細野のほうは、内心で慌てていた。まさか、この夫婦が喧嘩することがあるとは思わなかったのだ。ほとんど逆らうことがない妻と、あまり無茶を言わない夫という組み合わせだから、喧嘩なんてすることがないはずだ。

「しのさん、それじゃあ、食事は? 」

 通路を歩きつつ、本日の夕食について確認する。

「ああ、実家に帰るから。」

 なるほど、夫のほうが実家に帰るらしい。普通とは逆だ。だが、そのほうが、細野にしても安心できる。実家には両親がいるから、生活環境は、あちらのほうが断然いい。犬も食わないと、昔から言われている夫婦喧嘩ではあるが、細野は、原因に興味がある。しかし、若旦那は、基本的に寡黙だ。今も、スタスタと通路を歩いているだけで会話はない。

・・・・こういうのは、ジョンさんに尋ねて貰うほうが安全かなあー・・・・・・

 自分が尋ねても、ストレートすぎて、返事は望めない。下手をすれば、細野にも過酷な宿題が課される。

 とりあえず、不機嫌の原因は判明した。それだけは報告しておこう。と、細野は内心で、これからの予定を考えている。



作品名:篠原 喧嘩3 作家名:篠義