ヒーロー
起きて眠り起きて食べて眠り起きて食べてお風呂に入って眠る
なにもないことが在った
その日、母は夕飯のメニューを考え歌いながら作り
その日、妹は小学校のテストが上手くいかなかったので悔しがり
その日、父は自分の病院に入院している子猫を夜こっそりと愛で
その日、遥か東に居る元学友は、同じく元学友と思い出話で酒を飲み
その日、遥か南に居る女は車を運転中唐突に昔抱いた男を思い出した
食べて眠り起きて食べて眠る
はるなつあきふゆ
命が生まれ枯れ生まれ枯れ
時間は流れに流れ勝手に濁流や清流に変わる中
その真ん中に
なにもないという言葉だけを
ただその一つだけを大層大切にしている
一人の男が在った