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篠原 喧嘩2

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細野が告げた通り、正午前に、小田から連絡が入り、食事を共にすることになった。カフェテリアの前で待ち合わせをして、適当なものを食べつつ、打ち合わせをする。設計課との打ち合わせは、大人数とになるから、事前に、責任者同士で、意見を疎通させておく必要があるからだ。そうでないと、着地点が、互いにわからず、打ち合わせが迷走する。

「それでな、うちとしては、ここいらで、変更したいわけだ。」

「はあ、じゃあ、コンセプトを壊さない程度で、お願いします。」

「「え? 」」

「ん? 」

 素直な返答に、小田だけでなく、細野までが驚く。いつもなら、「コンセプトがあやふやになるから、ダメ」 とか、言いそうな改良点を、若旦那が頷いたからだ。慌てて、細野が書類の問題点を指し示して確認する。

「えーっと、しのさん、ここですよ? こっちじゃないんですよ? 」

「うん。小田さんに任せる。」

「任せる? おまえ、どっか具合でも悪いんじゃないのか? 」

 もちろん、小田だって、却下されるとわかっていての提案だったから、了承されてしまっては意味がないのだ。却下されて、では、どちらもが、納得のいくところはないのか? という議論に持ち込むつもりだったからだ。

「具合は悪くないです。やる気はないけど。」

「はあ? 」

 ぐてぇーと、若旦那は肩肘ついている。なんだか、不機嫌であることは、小田にもわかってきた。どうやら、何事かあって、機嫌が非常に悪いらしい。

「また、局長か人事部長からイヤミでも食らったのか? 」

 ま、この若旦那が、機嫌を損ねるとしたら、そういうものが多い。

「いいえ、今、イヤミを言われたら、凶状持ちになりそうです。」

「おいおい、若旦那。そういう橘の真似はやめろ。似合わないし、怖いから。」

 若旦那の所属する部署の責任者は、気が短く、手が早い。うっかりしたことを言うと、確実に殴られる。過去、局長も人事部長も殴るまではいたっていないが、暴言は数え切れないほど橘から聞いているだろう。部署内の篠原たちは、暴力に日々晒されていると言っても過言ではない。その真似を、まともで真っ正直と言われている若旦那がやったなら、確実に、全員が退く。いや、おそらく局長辺りは、泣きが入るだろう。

「いや、たまには、いいかと思うんですよ。ここんとこ、言われすぎだし、それも、僕にではなくて、りんさんや細野たちにぶつけてるみたいですからね。」

「あらあら、原因はそれか? 」

 不機嫌の理由が、そこにあったのかと、小田は思ったのだが、細野が横手で手を振っている。

「あの・・・・それは、江河さんが・・・・・すでに・・・・」

 報復攻撃はなされた後であるらしい。では、この若旦那の不機嫌の原因は? と、視線で尋ねても、細野は首を横に振るばかりだ。

「細野、若旦那の意図するものは、頭に入ってるな? 」

「はい。」

「じゃあ、これは、使い物にならないから返品させてもらおう。責任者として、ジョンを呼んでくれ。」

 これ、とは、ぶすくれている若旦那のことだ。こんな調子で、打ち合わせに出られたら、設計課のものは、退くだろう。なんせ、日ごろは、穏やかで優しいという評判の人だからだ。

「西野ですか? 本日は、予定が入ってて・・・・江河ではダメですか? 」

「若旦那以外なら、誰でもいい。こんな危険なのはダメ。」

「失礼だなあー小田さん。」

「プリン食べるか? 若旦那。なんなら、ケーキでもいいぞ。それで機嫌直して仕事してくれんなら、なんでも奢ってやる。」

「じゃあ、プリン・・・・・それから、さっきのは却下です。コンセプトがぼやけてしまうような改良は改良じゃない。直接的に、その効果を狙うから、そうなるんです。間接的に、その効果を狙う手法を披露してほしいですね。」

 ぶすっとはしているが、仕事はする気になったらしい。ついつい、小田が、いつもの癖で子供扱いしたので、余計に機嫌は悪くなったが、仕事についてのプロ意識は戻ったので、プラマイゼロというところだ。

「おおっ、そうこなくっちゃな。細野、プリンでもババロアでも、とりあえず、こいつの食いそうな甘い物を運んで来い。」

 自分のIDカード゛細野に渡して命じる。別に不機嫌でも小田は気にしない。ようは、やる気さえあればいい。

 

作品名:篠原 喧嘩2 作家名:篠義