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祭り

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『祭り』

 近代化という名のもとに、この国は実に多くのものを失った。農村社会の崩壊もまたその一つである。
農村社会には確かに悪弊はあったが、良きものもまた多くあった。大家族的な絆。春の田植えに始まり、秋の稲刈り。一族総出でやる行事だった。それが機械化によってあっという間に消えた。
それだけではない。人が消え、祭りも消えた。小学校の頃、戸数、わずか百戸足らずの小さな村にも、春祭りがあった。
その頃の子供達にとって、楽しみはそんなに多くはなかった。
祭りも少ない楽しみの一つであろう。春と秋にあった。それは紛れもなく、稲作と密接な関係があった。春は田植え、秋は稲刈り。むろん、幼い彼にそんなことは知るよしもなかったが。
 
何もかも、遠い記憶になってしまったが、それでも遠く過ぎ去った日の祭りのことを思い出す。おぼろではあるが、待ち遠しくて、祭りの日はわくわくしたのを覚えていた。彼は、秋よりも春祭りが好きだった。
 風が暖かくなったかと思うとまた冬を想像させるような冷たい風が吹く。そんな繰り返しの中で、やがて、木立に新芽が生える。見上げると、近くの山がほんのりと緑の色に染まる頃、春祭りがあった。
田植えの前であったか後ろであったか、もうはっきりと覚えていない。ただ、立ち並ぶ露店の品々を幼い目を光らせて眺めたのを、今でもはっきりと記憶していた。



作品名:祭り 作家名:楡井英夫