単純な理由
Yは友人の突然の告白に驚いて顔を上げた。今日はちょうど休日で、一緒に遊びにいった帰り、ファミリーレストランで夕飯を済ませ、今まさに互いのアパートへと帰るつもりだった。
「嫌い。」
そろそろ駅に着くころだった。そこで二人はわかれ、各自の家へと帰るはずだった。夜の七時ぐらいになるともうあたりは暗く、地面も黒い。電灯一つが照らすアスファルトの上で、Yの友人であったはずのNは、理解できないとも言いたげな顔をしたYを鏡のような目で映し、いつもの無感情な表情と声音ではっきりと、だが静かに言った。
「嫌い。」
Yは分からなかった。Nが突然こんなことを言い出した理由と、Nにこんなことを言われるようなことをしたという記憶が。
だからこそ真っ直ぐに言えた。純粋に、まっさらな心で。
「なんで?」
NはYを目で反射し続けた。Yから、Nの瞳の奥は見えない。Nはただ静かに告げた。
「嫌いだから。」
Nはそれだけ言うと、Yを振り返ることなく去っていった。駅へと消えたNを、Yはぽかんと大口を開けて見送った。