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海竜王 沢

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「・・・そろそろ、クリスマスだね・・・」
 その呟きは小さくて、微かに聞こえるだけだったが、銀色の竜となる子供は、黄金色の竜になる少女に抱き締められた。自分にはわからないが、それは、何かの合図のように、子供は嗚咽を始める。
「背の君、ケーキなど、ご用意させましょう。なんなら、沢たちに、紅白の衣装と白いひげなどつけさせて踊らせてみましょうか? ああ、それよりもトナカイがよろしいですわね。それなら、こちらにもおりますから、急いで取り寄せて庭へ放してさしあげます。」
 えっ? 俺? と、護衛の任についている俺の名前が、少女の口から発せられている。しかし、だ。紅白の衣装に白いひげで踊るというのは、なんだろう? 何かの呪術なのだろうか? 太子衛という、この子供の護衛の任について、まだ半年。人見知りが激しいらしく満足に会話が成立しないので、よくわからない。
「・・いい・・」
「では、何か・・・ああ、演舞など、ご覧になりますか? 」
「・・いらない・・ごめん、華梨・・・いい・・ちょっと、思い出しただけ・・・おかあさんが、真っ白な手袋を編んでくれたんだ・・・・すっごく暖かくて・・おとうさんが、俺の食べられるケーキも作ってくれて・・・俺・・・普通のは、あんまり食べられなかったから・・・」
「ええ、ええ、それは良い思い出でございます。これから、それと同じものを私と思い出にしていただきたいのです。」
「・・うん・・」
 小さな子供は、くふっと笑って、少女の胸に顔を埋める。この小さな子供が次代の主人であり、少女の比翼の鳥となる。まだまだ先の話ではあるが、それまでの護衛を申し遣った。よく泣く子供で、一日に一度は泣いている。こんな子供に太子衛など必要ではないだろう、と思っているのだが、竜王からの依頼では無下にもできない。
「沢。」
 その少女が、俺を呼ぶ。次代の主人にして竜族で最高の力を持つ少女だ。
「はい。」
「あなた、未だに、背の君に、お声をかけていただけないのはいかがなものですか? 少しは、背の君の本質について考えてみるべきではありませんか? 」
「本質? 」
 武人である俺は、風体も厳ついし、人相もよろしくない。だから、子供に怖がられても仕方がないだろうと思っていた。しかし、本質とは何のことだ? 
「背の君は人相風体などというもので、判断される軽佻浮薄なお方ではございません。あなたに、お声をかけられないのは、あなた自身が、背の君と向き合うつもりがないからです。わかりますね、沢。」
「はあ、しかし、私は護衛でございます。お声をかけていただく必要はありませんが? 」
「おや、おまえは、そんなつもりで拝命したのですか? それでは、背の君の太子衛は勤まりませんよ。」
「・・・華梨・・・いじめちゃ、ダメ。あの人、サンタを知らないから、わかんないんだよ。クリスマスしないんだね。」
 俺が叱責されるのを遮るように、子供が少女に声をかけた。その言葉に何かひっかかったが、気にするより、先に少女が子供を抱き上げて歩き出してしまった。
 数年して、この大人しい子供が、実は、その頃は体調がおもわしくなく、弱っていただけだと判明した。そして、子供が他人の心を覗けることも、その時、ひっかかったことが、何だったかもわかった。
「そういう異国のイベントで、恋人を口説くもんじゃないの? 沢さん。」
 とか、目の前で、ふてぶてしく笑っている子供の頭をぽかりと殴る。すっかりと元気になった子供は、なんとも元気で乱暴者で、「水晶宮の小竜」なんて、ふたつ名まで冠せられて、日々走り回っている。
「クリスマスって、そんなに楽しいか? 深雪。」
「うん、楽しいよ。今年は、華梨に髪留めをプレゼントするんだっっ。おとうさんに作り方を教わったんだ。」
「つけてもらえるくらいの技量はないだろうが、おまえはっっ。」
「はんっっ、見て驚け。今年の俺はひと味違うぞ。」
 小竜は、そう言って、ニカニカと笑って、何か細工をしている。たぶん、それは・・・小竜が好きだと思う人たちへの贈り物だ。それに、一昨年からは、俺の分も入っている。

作品名:海竜王 沢 作家名:篠義