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くーるびゅーてぃ

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穏やかな日差しとそよ風の中、私はこの世を去ります。
風が私の死を誰かに知らせに行くでしょう。
私の死を知っても悲しまないで下さい。私も悲しくなってしまいますから。
皆さんは私の分も生きて下さい。
私の死は決して後ろ向きなものではありません。
みんなにありがとうを言いたいと思います。
でも、私はもっと私の事を理解して欲しかった。
次に生まれた時は幸福になれたらいいなと思います。

トモくんへ

あなたと出会えて良かった。
多分神様が引きあわせてくれたんだと思う。
こんな結果になってごめんなさい。
美しいまま死にたいという、私のわがままを許して下さい。
決して私の後を追わないで下さい。
トモくんの心の中に私が居るだけで幸福です。
私の分まで生きて下さい。さようなら。

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 私は書く遺書の内容を決めているの。でも、遺書というものの性質というべき
か、『いざ遺書を書こう』という気には到底なれないから、まだ実行には移せて
いない。
 私の頭の中には、トモくんの事がずっと巡っている。優しいけどケチなのが玉
にキズ。それに私の事なんか全然理解していないの。まあそこが可愛いんだけど。
私にはゾッコンみたいで、給料日にはプレゼントをいつも買ってくれる。
 いい忘れたけど、私は元読者モデルなの。そりゃ相当な人気があって、男は選
び放題だったわ。モデルの本能でなんか分かるのよ。相手が自分に惚れてる感じ
っていうの?電車に乗ってもいつも視線を感じていたわ。まあいつもは仏頂面な
んだけど、笑顔を使えば誰でもイチコロだったわねぇ。
 今は38歳。仕事は転々としてるけど、30過ぎまでは受付嬢で、それからは普通
のOLをしているの。頭を使う仕事ってK大卒の私にはやっぱり向いてるわ。
 私くらいの年齢になると周りは大体結婚して、子供もそれなりに大きくなって
るわね。私も一時期は結婚に憧れてたけど、今は全然。そもそも子供が嫌いだし、
私に釣り合う男がいなくて><
 男とは色々あったわね。睡眠薬に頼っていた時期もあったわ。どの男も私の気
持ちなんて全然理解してくれないの。思い出しただけで本当に頭に来るわ。
 私が死ねばトモくんも後を追って死ぬかもしれない。それくらい私の事が好き
だし。周りもみんな悲しむわね。親はもう二人とも死んじゃったから、親不孝に
はならないわ。本当言うとそれが気掛かりだった。やっぱり親より先に死ねない
じゃない?

「ふうっ」

 また頭の中で色々喋ってしまった。布団に入るといつもこうなの。たまに、そ
れに気が付いてこうやって一息入るけどね(笑)
 自殺の決行は本日。もう朝になっちゃったけど、寝るのは今から。
 自殺の場所も決めてある。お気に入りの廃墟があるの。私の最後にふさわしい、
美しい廃墟。夕日がとても綺麗に見えるの。それを見ながら世界にさよならを
言うつもり。
 さっき、家にある全部の睡眠薬を飲んだからそろそろ効いてくる頃ね。今は朝
8時だから、起きたら夕暮れ前の良い時間帯になるわ。化粧はもうこのままでい
いや。
 にしても最後にあの糞上司に何かしてやれば良かったかしら。遺書も恨み辛み
を書こうかと思ったけどさいごがそれじゃあこっちがみじめになるだけだしむに
ゃむにゃ――

――目が覚めた。いつの間にか眠っていたみたい。でもめちゃくちゃ気分が悪い。
睡眠薬のせいだ。今までに無いくらい意識が朦朧としてる。でも死の恐怖が薄
まって丁度いいわ。遺書、遺書を書かなくちゃ。
 頭で考えていた遺書の内容を思い出そうとするが、なかなか思い出せない。私
は頭を掻きむしりながら、ペンが勢いよく走るままにスラスラと動かし、何とか
書き終えた。ひどく疲れた。15分くらい書いてた気がする。そんなに長い内容だ
ったかな。
 まあいい、行こう。今回は衝動じゃないし、なんか成功する気がする。

――電車を乗り継いで山の中の廃墟に着いた。平日だし駅からここに来るまでの
間、ほとんど誰ともすれ違わなかった。おめかししてこんな所に来るなんて変だ
と思われそうだし、丁度よかったわ。
 最後くらいは綺麗に死にたい。飛び降りだから綺麗にってわけにはいかないか
もしれないけど、首吊りは排泄物を垂れ流すって聞くし、そっちの方が嫌だわ。
天使のようにふわりと空に舞って死ぬ方がいい。

 廃墟についた。やはり誰もいない。
 私は廃墟の中にある最も高い建物がお気に入り。何度も来たことがあるけど、
山の中という事もあって、ここからの景色は格別なのよね。早速屋上まで登る事
にした。
 人間はマンションで言うと大体7階以上の高さがあれば死ねるらしい。でも下
は土だから多分もう少し高さがいるわね。ここは10階建てだから多分大丈夫でし
ょ。
 屋上からの景色は素晴らしい。夕日は橙色と藍色が混じって不思議な色をして
いる。まるで私の死を嘆いて悲しんでくれているみたい。
 私は心の中でトモくんにお別れを言い、そっと目を閉じた。
 そして両手を組んで聖母のように気高く美しく地面を蹴って飛び降りた。

ビルから落ちる。
全ての美しさを携えて。
聖母のように気高く美しく。

飛んでから地面に落ちるまでの3秒ほどの間で
私の人生がフラッシュバックとなって表面化した。
よく言われる噂は本当だった。
走馬灯というよりは閃光のように、一瞬でイメージが流れこんできた。

『子供の頃にクラスメイトをいじめた事』

『他の読者モデルの悪い噂を流した事』

『男を最も無様になるように捨てた事』

『部下をストレスのはけ口にした事』

『全てから逃げる為に自殺する事』

全てが鮮明にフラッシュバックした。
私は3秒の間に発狂した。
私の醜い面だけが全て表面化した。
落ちる中、私は気づいたら目を見開いて両手足をバタバタさせていた。

何の事はない。これは神のいたずらなんかじゃない。
隠れていたものが出てきただけの事。
人生の精算を一括払いで済ませただけの事。

私は、先ほど起床した時、朦朧とした意識の中で
書いた遺書の『実際の内容』を全てはっきりと思い出した。
それは、それまで考えていた内容と大きく異なるものであった。

作品名:くーるびゅーてぃ 作家名:ユリイカ