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フレンドボーイ42
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偽善者賛歌20「夜叉」

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 アパートを実家にしたとはいえ、哀憐は別に本籍住所は別にあるわけであり、それはすなわちアパートの住民との面識がないことに矛盾を与えない論理である。ゆえに明石とはアパートでは面識がないのはまあ普通ではあるのだが、不思議なことに、それでも彼とは一度話しており、お互いに顔見知りなのである。彼が嫌いだから彼を鬼奴のごとく扱い、彼はまた哀憐を鬼奴のごとく認識しているのだろうか…結論からいえば違う。彼はただ反駁する機会をうかがっているだけであり、心に彼女を嫌いというよりは、彼女に対して一種の対抗心を燃やしていると考えていいだろう。
 「あ」
 あの男だ。哀憐は隠れてみていた。
 「どうしたんだこんなところ」
 「いやあ、ちょっと用事で。…古巣さんこそどうしてまたこんなところを散歩しているんですか」
 「暇つぶしだよ」
 お義父さんと喋っているんだな、と判る。だけど、ここでは私はでていきたくない。彼の用意している反駁に勝てる見込みがまるきりない。
 「そういえば、おまえんとこの近くで殺人なかったか」
 「隣人、っていうんですかねえ、確か、はい、多分隣人ですけど、殺害されていたようです」
 「バラバラに」
 「第一発見者なんで」
 「疑われなかったのか」
 「背後に別の人がいるのを気づいたみたいです」
 「やーさんか」
 「やーさんでしょうか?もっと凶悪な連中か下部組織じゃないですか」
 「…気持ち悪いとお前のことだから思わないんだろうな」
 「まあ、そういうこと考えててもしょうがないでしょう」
 「ははは」
 談笑の内容はそんなところか。

 「聞いていたんでしょ?」
 「へ」
 古巣がいつの間にかいなくて、そして明石が目の前にいる。
 「別におどおどしなくていいって。こっちは別に今ここで論争する気はないし。雨が降りそうだっての」
 「じゃあなんで」
 「俺のお隣さん、…だった野郎か、偽悪者だと俺が思っていた奴なんだが」
 「偽悪者?」
 「お前から見れば偽善者なんだろうが」
 「だれ?」
 「倉敷」
 「それって」
 「お前の元カレ?」
 「…」
 「俺の部屋の前で、バラバラになって死んでたよ。ドラッグアディクトの女が摘発された翌日にな」
 「…」
 「どうやら善人って柄でもないのに善人になろうとしたようだ。結果偽悪者になっちまったわけだ」
 「どういういみで」
 「麻薬中毒者をかくまうのは触法行為にならないんですかね?まして自分がその女に麻薬を与えてたら」
 「…どうでしょうね、それが偽悪というのはいただけないかな」
 「…まあ、いいか」
 彼はそれだけいってから、思い返したように言った。
 「…これ、俺の住所と電話番号、プラスメルアド」
 「なんで」 
 「気が向いたらいつでもディベートふっかけに来いよ。…暇だし。暇で死にそう」
 「何かすればいいじゃん」
 「何かする度に偽善と言われて、倉敷みたいに偽悪者になる末路だけは避けたい」
 「嫌味?」
 「いや、寧ろ尊敬だ。違う見方を示してくれたんだからな。それに喜びを覚えるか否かは別にして」
 「…」
 「怒っちゃいないさ、そこまでひどい性格ではない。俺は人間だ。鬼ではない」