偽善者賛歌19「重力」
明石との決戦におそらく負けるだろう、哀憐は。…今のままでは。だけれども、彼には帰属意識が存在しない。そもそもが独立したこである、まるでペリドットの中の珪酸塩。四面体はそれぞれ酸素がマグネシウムまたは鉄を媒介として、いわば建前上のつきあいをしながら各個が独立している(=独立構造)珪素のごとく、劈開性の弱さ。いつも決まった返事はしない。
それこそが彼の強さであり、弱さである。彼が生きるその道に苦しみはついて回る。何もかもが決められない。人に流されて生きていく。…偽善って用はそういうことなんでしょ?そういうことなんでしょう?彼女はそれを問う。しかしその答えを乞うてもむなしいだけだ。なぜならば今ここで勝利しているのは明らかに明石だ。哀憐ではない。
せっかく帰属しているのに、勝てないのだろうか。彼女はあの日以来から勝ったと思いこんでいたのに、ここ数日から負けている気がして、それで回想して反省を試みた。古巣とあってから、彼の娘になるまでのこと、そして明石にあって、明石を偽善者呼ばわりした日のこと。
こんなことでいいのか、古巣哀憐。しかしそれは瞬いて消えていく心の中の星星にたとえられてしまう。
総てが下方向ベクトル。重力は、地球の真ん中にこそは向かってこそいないが、彼女にはそれが地球の中心に墜ちる思いがした。マントルが固体だなんて知らないし。固体にして混晶だなんて知らないし。液体部分は外核だけなんですよ、なんて聞かなかったことにしよう。彼女はそうまた無駄に落ち込んで無駄に周りに暗さを与える。
作品名:偽善者賛歌19「重力」 作家名:フレンドボーイ42