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mizutoki catastrophe

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/つみきとカタストロフ



「ねえ、お兄ちゃん」
 片付けが終わる頃イズミがぼくを呼んだ。
「どうした」
「これ、覚えてる?」
 そう問い差し出す、ダンボール箱ひとつ。ぼくはゆっくりとそのふたを開いてみる。
 すると中にあふれる幾何学の立体と彩り。
「積み木か」
 手に触れると質感が肌によくなじむ。
「うん」
「でも覚えていないな」
「そう」
 イズミはどこかさびしげな表情を浮かべ。
「ちょっと貸してごらん」
 ぼくは彼女の持つ箱を受けとり、箱の中身を掃除を終えたばかりの絨毯にひろげる。
「いっぱいあるね」
「そうだな」
 イズミはひざを曲げかがみ、色とりどりの積み木を手にとりあそんでいる。
「なんかお兄ちゃんのにおいがする」
「寝ぐせでも反応したのかね」
「お兄ちゃんは変なことばっか覚えてる」
 またイズミは軽くすねてみせ。
「ねえ、お兄ちゃん」
 また問いかける。
「人と人はね、パズルだけど違くて。少しだけなら、重ね合うことができるの」
 ふたつのつみきをぶつけ合って、イズミ。
「そうかも知れないな」
 もしかしたら、その重ね合わせとは理解と呼ばれるものだったりするのだろうか。
「でも、大切なモノの居場所は相手を傷つけて作らなきゃいけない」
 どこかに自分がいるとすれば、そんな仮定が成り立つとすれば。
「イズミ、ぼくらに足りないのは兄妹ゲンカじゃないかって思うんだ」
 ぼくが思う不安は、イズミが自分の居場所を作れなかったんじゃないかということ。
「ううん。それは違うよ」
 イズミは首をふる。その拍子にイズミの組み上げた小さな木の塔はくずれてしまった。
「ねえ、お兄ちゃん。生きているコトって、どういうことだろうね」
「さてね。ぼくに思弁はさっぱりだ」
「わたしね、思うの。それは認識すること。自分が『一つ』じゃないと感じられること」
 倒れた積み木にまた新しい積み木をのせ。
「だから、わたしに必要なのはお兄ちゃんの隣なの」
 少しだけ照れたような横顔を見せながら。
「でも、それってぼくのわがままをイズミが通してくれただけじゃないのか」
「ちがうよ。お兄ちゃんは妹の意志をわかってない」
「そうか」
 うん。そうなのだろう。
「積み木がくずれるのって、どこからかなしいんだろうね」
 また一段と大きくなったそれを指でつつきながらイズミが話す。
「半分くらいかな」
「わたしもそう思う」
 ぼくらは組み上げたままの積み木をそっとそのままのかたちで箱に動かす。
 ふたりで持ちあげた積み木には、さきほど感じることのなかった大事なものがあるように思えた。
「ねえ、お兄ちゃん。おくりものがしたい」「大好き」「知ってる」
 ぼくらは、重なり合う世界で生きている。
作品名:mizutoki catastrophe 作家名:白日朝日