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犬のお巡りさんを壮大にしてみた

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第三章 民間軍事会社 〜PMC.


ようやく今回の主要部分を掴んだシェパードは思い切った作戦に出なかった。
それは、この子の詳細が最優先だったからだ。
この子と、政府関係者がどのような関係を持っているかをまず知らなければならない。
又は、どのように絡んでいるのかを調べる必要があった。
無闇に、政府関連の情報を調べようとすれば恐らく永遠に外の世界に出てこられないと言うことを承知の上で、少女がどのようにして山を越えたのか質問してみた。
ただ、質問するだけでは意味がない。
慰めながら質問してもダメ。
少しキツめの質問はすぐに答えを聞きだせるかもしれないが、相手は少女だ。
ならば、遠回りな質問しかない。

「山の向こうではどんな暮らしをしていたのかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

やはり、黙ったままだった。
少女は下を向いたままムスっとしていて、目を合わせようともしなかった。
だがここで諦めるわけにはいかない。
粘るように、話題を変える。

「家に帰りたくないのかい?でもここには君が住めるような場所はないよ?」
「・・・・・・それは・・・・やだ・・・・」

少女は小さな声で呟いた。
目からは不安と恐怖、心配という感情が見える。
今にも泣き出しそうで、何かを恐れながら、そして何かを悲しんでいる様子だった。
だが、今ここで泣かれても困るだけなのでシェパードは何か飲み物を飲ませようとコーヒーメーカーを指差しながら、

「なにか飲み物でも飲むかい?コーヒーが嫌ならオレンジジュースも出すぞ?」

そう言った瞬間、少女の顔に少し元気が戻った。

「・・・・・ありがとう」
「いいさ、俺もコーヒーやめてオレンジジュースにしようと思ったところなんだ」

正直な話、演義を続ける必要すらなくなってきたのかもしれない。
そう心のどこかで思いながらガラス製のコップにオレンジジュースを注ぐ。
二人分のコップを机に並べる。

「山の向こうでは何をしていたんだい?」

率直に質問してみた。
返答される確率は低いと確信を持っていても、質問をした。

「・・・・・・・実験」

ようやく不安が解けたのか、少し黙ったあとに答えた。

「・・・実験?なんの実験なんだい?」
「わか・・・らない・・・」

まだ、なにかを恐れているようだった。
しかし、少女は特に秘密など隠しているような素振りはなかったので事実なのだろう。
下手に質問をすればヒステリックを起こしかねないので、もうすこし質問の方向性を変える。

「相当酷い実験だったんだな・・・・・でも実験ってわかるんだったらどんな感じなのかわかるんじゃないかな?」
「・・・・・生き物を機械で殺す実験だった・・・・」

(生き物を機械で殺す・・・それに何の意味があるんだ?)

生態実験とかの意味なのだろうか?
そう考えたシェパードだったが、わざわざ理解不可能な技術で山を要塞化しているんだからきっとなにか凄まじいものを実験していたんだろう。
と考えたが、シェパードの思考はそこで止まった。
正確には止まったのではなく、なにかに引っかかった。

(・・・技術・・・・・?まさか!)

止まっていた思考は、新たな道を作りだしたようでシェパードは何か思い出した。

(そうか・・・・そうだったのか!理解不可能な技術か!そして生き物を殺す実験!わかった・・・わかったぞ・・・!)

シェパードは考えた。
生き物を機械で殺す実験は恐らく、新兵器開発のことだ。
そして、山の理解不可能な超常現象はこの新兵器が原因だったのだということを。
だが、山の無差別な攻撃はなぜ少女だけが逃れられたのか、そこだけ辻褄が合わなかった。

また考えに行き詰ってしまった。
少女はまた心配そうに睨んできたが、こんどは近づいてきた。
シェパードは悩んで少女の事すら気にしていなかった。

少女がそーっとシェパードの顔に近づく。
それはもう面と面が10cmしかないくらいに。
そこでようやくシェパードが正気を取り戻したようにゴホンとわざらしい軽い咳をする。
するとシェパードは何かが目に止まった。
それは、少女が首にかけている小さなロケットだった。
「あの・・・すまないが・・・その首に掛けてあるロケットは?」

目をロケットに向けながら指すように言う。

「あ・・・・これ・・・黒い服着た人たちがくれたものなの・・・」

黒い服を着た人とは恐らく政府関係者のことだろう。
笑顔のまま表情は変えず、

「見せてくれないかい?」
「・・・うん」

少女は軽くコクッと相槌をして、首に掛けてあるロケットを取って見せてくれた。
普通ならロケットの中には写真が入っているものだが・・・・
そう思いロケットを開けた。

「・・・・・ICチップ・・・・・?」

あからさまに異様な代物だった。
金色でバラの装飾が施されているロケットの中身にはロケット本来の雰囲気を壊すかの様に電子回路が露出しているICチップの姿が見えた。

「これは・・・・軍でも使用されている認識用のICチップだ・・・・なぜこんなものを?」
「・・・・・・ICチップ?」

だが、もしこれのお陰で山の攻撃を回避できたとすれば・・・

「・・・・・辻褄は合う・・・」

少女は一体何がなんだか理解できなかった様子で、コップの中の液体を啜る。

(まずは・・・・このICチップがどこで生産されたか知らなきゃならないな)

残念なことに、軍や政府関係者が使用しているスパイさまさまな物は大概メーカーや生産者名がない。
これは加工されているのではなく、手作りだからと言う訳ではない。
しかし、手作りの方が安上がりだし使用者がどのように加工して、どのような状況で『使える』と言う点がある。
もちろん手作りだからメーカー名も無いので、捜査しても最後に行き着くのは犯人の情報だからだ。
ということは、軍や政府関係者が使用している物は大概『自前』で生産されていると言うことになる。
メーカー名がある電子機器なんて下っ端が使うものだから、下っ端が犯罪なんて犯したら即効で刑務所行きだ。
自分達の部下が刑務所なんて行って、捕まったという情報が流れれば当然マスコミが嗅ぎ付けてニュースに報道されて評判ガタ落ちだろうが政府は政府なりの考えがある。
あえて『こう』することによって自分たちは一般人と平等な立場にあると思い込ませるのだ。
そうすれば、一般人の社会に溶け込めるチャンスができるし、一般人と対等な立場で小競り合いできるからむしろ政府等の重要機関にとっては好都合だからである。

ともかく、ひとまずこの少女と共に過去に自分の職場だった民間軍事会社『W.C.A(ウォー・クリエイト・アームズ)』に向かうことにした。
『W.C.A』は軍や、警察、民間などが手に負えない地域での工作活動を請け負い、現場に送らせて作戦の支援をするいわば一つの傭兵会社である。
元々は戦時中、空軍や陸軍で退役した軍人達が職を見つけられずに立ち上げた小さな傭兵集団で、主にテロリスト殲滅依頼を請け負って、テロリストを見つけては狩ってまわる戦闘狂集いの集団だったのだが。