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犬のお巡りさんを壮大にしてみた

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第一章 迷子の子猫ちゃん 〜Lost kitten.


どこを見渡しても山と野原しか見えないこの辺鄙な田舎町。
人口は3000人程度の小さな町。『アンデベル』
そんな小さな町の保安官として勤めている俺、シェパード・クライムスは町の二時間に渡るパトロールから、爺さん婆さんの世間話のお相手までこなす優秀な保安官だ。
自分で優秀というのもおかしいのだが、実際にこの町で起きた犯罪件数は無に等しいし、経済危機や食料問題も起きていない。
なんたって他人の愚痴を聞いてやったり、自殺願望の奴の動機を聞いて慰めてやったり、くだらない万引きや強盗をとっ捕まえてやったりして町中からは『町の守護神』なんて呼び名まで付けられてるんだからきっとそうなんだろう。

別に自分に自惚れてる訳じゃない。
みんなに自信を分けてもらってるから俺は自分に自信が持てるだけだ。
そもそも俺は元軍人だ、人が苦しむところは見ていて辛いし、自分だってそういうのは嫌だ。
俺はそんなことを考えながら保安官事務所のデスクで上層部から送られてきた書類を黙って整理していた。
こんな紙切れで俺達の人生が左右されるなんて嫌になる。
一枚一枚丁寧に整えたら今度はそれを、資料室の棚に並べた。

資料室の窓からは事務所の向かいの郵便局が見えた。
三角の木製屋根が目印の建物で、この町唯一の郵便局だ。建物は小さく、まるで丸太小屋の様だった。
しかし、小さくてもその郵便物の量は異常に多い。その殆どがこの事務所宛のものだ。
この郵便局を経営している、ピジョン夫妻は最近になってバイト募集を始めたらしく。
なんと驚くことに隣町にまで店舗を構えることに成功したのだった。
そんな二人が経営する郵便局本店の前で一人の少女が右往左往していた。
見た目は小柄でいかにも子供な外見で、

(なんだ、郵便局に用でもあるのか?それにしても見ない顔だな。この町に観光客が来るなんて珍しい・・・・・・・・)

資料を全て棚に詰め込み、急いで3階の資料室から出た。
階段を何段か飛ばすように下りて、事務所の出入り口の扉を左手でゆっくりと開けた。
女の子が気になったんじゃない。
この町に問題ごとを起こす奴はできるだけ遠ざけたかっただけだ。
そう心にとどめて置きながら、シェパードは少女に尋ねた。

「お嬢さん、どうしたんだい?道にでも迷ったのかい?」

そう聞いたが、少女の方はずっと泣きっぱなしだ。
片手で目を押さえながらえーんえーんと泣いている。

(これは困ったな・・・・・・こりゃ質問をしてもなかなか答えてくれないぞ・・・・・)

苦虫を噛んだ様に顔を歪ませたシェパードはもう一度質問をした。

「お母さんは近くにいるのかい?それともお父さん?近くに住んでるかい?」

だめだった。
どんなに質問をしても答えてくれるような素振りを見せない。
本当に困った。近くに住んでいるのか住んでいないのかも分からない。
一向に泣き止まないとなれば、一度事務所で保護すると言う形になるわけだが・・・・
親族のことも一切言わないとなればこれは一大事だ。

一応このままでは可哀相なので保護することになった。
事務所の待合室でまだ泣き続けている少女。
シェパードはとりあえず身元が不明なので本部に連絡をすることにした。
連絡用の通信機は民間のものではなく、軍用のEMP攻撃にも耐えられる通信機しかなかった。
保安官事務所はこの州を統括している空軍が建てたものだ。
回線は近くの民間軍事企業(PMC)を経由して空軍に届く、という方式をとっている。

「こちら、D-8856地区保安官事務所のシェパードだ。本部に繋げてくれないか?」
「了解した、シェパード。一体どんな用件なんだ?」

軽い深呼吸をする。

「ああ・・・・・・迷子の知らせだ」
「そうか。・・・・・・よし。繋がったぞ」

少しノイズが入り混じった直後に透き通った女性の声が聞こえた。

「どうしたのシェパード?用件を言ってみなさい」
「身元不明で迷子の女の子を見つけた。身長は150くらいで、髪の毛はショートで茶髪。所持品はなし。衣装はピンクのワンピース。種族は猫。名前不明、住所不明、おまけに親の名前も不明ときた。これで何か情報を掴めないか?」
「・・・・・・OKメモしといたわ。どこから来たのかも分からないのね?」
「そうだ」
「じゃぁ後はこちらで任せてもらうわ。その女の子はそっちでちゃんと保護してね?変な風に扱ったらMi-24でアンタの家を爆撃するわよ?」
「・・・・・・・なんでそうなる?」

ブーッ

と音がして通信が終了した。
席から立ち上がり、少女に最後の質問をしてみた。
どうやら泣き止んだ様で、ほほが赤くなっているのが分かった。
目は涙で赤くはれ上がっている。

「・・・・・・・どこから来たのかな?」

答える様子はなかった。
もしかして言葉が通じないのか?と考えたがそうではなかった。
ずっと黙ったままの少女が、遂に喋ったのだ。
なんども質問をされても、何も答えなかったこの少女が、だ。

「・・・・・・・・・・山の向こぉ」

今、何と言った?
確かに少女は今、山の向こうと言ったはずだ。

「山の向こう?・・・・・本当に?」
「・・・・・うん・・・・・山の向こうから来たの・・・・・・」

この話が本当だとしたら。
話が本当だとしたら。
これはただ事では済まないということになる。




・・・・・・・・俺は、とんでもない少女を保護してしまったのかも知れない。