和貴子の不貞
「これからも素直に生きればいい。自分の分まで生きてほしい。人を好きになったり、嫌いになったり、……思うままに生きて欲しい。自分もそんな生き方をできたら、良かったと思う」
夫は機関車のごとく働くことを生きがいにした男だった。そして五十を目の前にして、倒れ不帰の人となった。
「振り返ると寂しい人生だったような気がする。……お前がいてくれたことが唯一慰めだったが」と言い終わると、何とも言えない柔和な顔をした。
その最期の顔を思い出したとき、和貴子の目に涙が溢れてきた。
翌朝、春山賢治に電話した。山形には、一緒に行けないと。