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ss2月作品 ビターバレンタイン

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日本は実に素晴らしい。春は夜桜、夏は海。秋の月夜に冬の雪。その四季折々の風物詩と共に、人は思い思いに日を刻む。しかし、365日を4分割するだけでは気が済まない人々は、頼んでもいないのに、年に一度のイベントを幾つも創造してしまったのだ。そうして今年もその中でも最も許しがたいイベントを迎える。女子は浮かれた顔でこう言う。「今年は誰にチョコを渡そう。」
 高校2年生である僕にとって、勿論バレンタインは無視できないイベントだ。“最も許しがたい”と言っておきながらも、心の底では毎年楽しみでならない。だが普段から目立たない僕がそんな期待を口にすれば、たちまちクラスのピエロに任命されてしまう。僕の2月14日における使命は、平日として1日を平和に終えることである。
 しかしそもそもこの日は、シャイな女子が自分をアピールするチャンスという意味合いもあるのだから、一度も話したこともないあの子からもらえるかもしれない。とか、義理チョコなんて言葉もあるんだから、以前消しゴムを貸してやった隣の席の女子から、あんまりかわいくはないけれど、もらえるかもしれない。そのくらいの義理はあるだろう。とかを3週間くらい前から妄想を膨らます。そうして当日を迎え、遅めに登校して下駄箱をあさり、教室について無表情で机の中をまさぐり、自然な演出でなるべく一人の時間をつくり、放課後も少しだけ長く教室に残り、いつもの倍の時間をかけて帰路につくころには、朝登校する前とは、かばんの中身に一つの変化が起きている。
その唯一の変化である空の弁当箱を母に差し出して、机に置いてある包みを見て、例年通りの一言を添える。
「お母さん、チョコありがとう。」