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だから、恋と呼ばないで。

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あたしは、海を歩いていた。潮のにおいのする場所は、私の生まれ故郷に近くてどこか落ち着いた。切ないけれどどこか落ち着いて、そしてあたしを優しく包んでくれるところが好きだった。
 この春から通いだしたこの大学は、私の生まれ故郷とはまったく間逆の場所にある。でも、夢をかなえるためにここに着たんだ。
 そろそろ時間か。あたしは大学のキャンパスに向かって歩き出した。

 大学のキャンパスの浮かれて浮き足立っている中を、あたしは早足に入っていった。どうにかしてあたしはあたし自身の夢をかなえたい。絶対に、誰にも劣らない人になりたいんだ。そのためには、愛だの恋だの要ってられない。友達なんて、数えるほどもいない。
 桜の香りは好きだ。みんな桜のせいで浮き足立っているとしても、あたしは関係なくその桜を愛している。海と同じように、桜の香りは切なくなんてなかった。春の訪れを知らせるように陽気で、でもどこか海と似ていて落ち着いた。そして優しかった。

「美砂都」
 桜の中から不意に声が聞こえた。不機嫌そうに手招きする声のもとに走っていく。
「優梨子・・?ってあぁ!」
「馬鹿美砂都。あんた今頃思い出したか。」
 煙たそうな顔をしている友人・優梨子は桜がだいっ嫌いだった。それに気づかず、あたしは桜の中をさっさと通り過ぎようとしていた。優梨子と約束して学部の中に入る時間を決めていた。そしてさらにここの桜の通り道なんかじゃなくて、裏入り口の木蓮が咲いている道で約束していたのだ。なのにあたしはすっからかん。頭の中がスースーするくらいすっきり忘れていて、桜の中を歩いていった。

「でも優梨子。桜の中は気持ちいいよ?さぁ、いこう!」
 案の定促すと、優梨子はしぶしぶ歩き出した。
「ねぇ、何で優梨子は桜が嫌いなの?」
「んー・・昔、ちょっと、ね。」
 曖昧に優梨子はごまかした。これ以上追求するのは止めておこう。

「あ、やばい。あたし寮母さんに挨拶しなきゃいけないんだった。また後でね」
「あ、優梨子。うん。じゃぁ、木蓮のとこで」
「じゃ」
「ん」
 パタパタと桜の道をかけていく。長い茶色い髪が印象的だった。
「あたしも・・頑張んなきゃ・・!!」
 ぐっと握った手をあたしは見つめた。

「・・で、あるからにして・・」
 早速、講義が始まる。あたしは愛用のクルトガを使ってノートにまとめた。こう見えても、あたしは結構頭がいい。全国模試でもトップ10に入ったことがある。この学校は、学費が安くてそれでいてあたしの夢をかなえる場所にうってつけだった。家が裕福なわけじゃないので、とても都合が良かった。
「・・である。ではここで終わり」
 講義終了だ。あたしは手早く荷物をまとめると、さっさと講義室を後にした。

「やっばい。優梨子、もう終わってるかも。」
 思いのほか、優梨子の科は早く終わったみたい。きっとむくれた顔で立ってるんだろうなーなんて考えた。ぷくぷくのほっぺで、「美砂都!遅い!」なーんて言うのかな。
 考えてたら携帯がなった。新着メール、一件。優梨子からだった。
「ん・・?珍しい。」
 
Dear 美砂都
 今日、受ける講義一つ忘れてた。今から受けるから、さき帰ってて。ごめん。
From 優梨子

「あらら・・暇になっちゃった。」
 優梨子の寮で、おめでとパーティする計画だったのに。用意してきた食べ物も無駄になっちゃう・・。
「海・・行こうかな・・」
 こうなれば行くところは一つ。あたしは海に行って食べることにした。

「んー!!気持ちいいじゃん!天気もいいし」
 突き抜けるような空の青と、海の輝きがあたしの目に飛び込んでくる。
「ここら辺でたーべよ♪」
 早速腰を下ろして座る。浜辺に直に座ったけれど、海の近くで育ったあたしにはどってことない。むしろ開放感があって、自由でいい。ごろっと寝そべってみた。
「んー・・。最高!」
 目をつぶって、静かにしている。潮の匂い、人の声。まだ疎らではあったけれど、海を散歩しに来た人たちだろう、なんて考えてみる。砂をこする音、波の音。すべてがすべて特別に思えた。
 目を開くと目の前には―

白い肌。藍色の目。真っ黒の髪。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」





 何!?なに!?なになになになに??

「に・・人間!?」
 びっくりしてあたしは飛び上がる。周りに2、3羽いたうみねこが遠くへ飛んでいく。周りにいた人たちの視線が痛い。
「・・あの」
「い・・命ならあげないよ!」
「いえ、そうじゃなくて・・」
 こんなところで死ぬなんてしたくない。
「警察に来てもらおうか!」
「その・・ご飯分けてもらえません?」
 警察に届けないと、あたしは・・周りの人は・・!!―ってうん?ご飯?
 目の前の人に視線を移す。白い透き通るような肌。藍色の目。真っ黒な髪。なんていうのか・・まぁ、かっこいい。



作品名:だから、恋と呼ばないで。 作家名:Spica