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Tears - side B -

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細い肢体。
柔らかな肌。
黒い瞳に、少し癖のある髪。
一目で恋に落ちたわけではない。
今でもきっと恋をしているわけではない。
ただ、欲しかった。
その存在を感じるたび、欲しくてたまらなかった。
ずっと欲しかった存在が今、腕の中にある。
体を満たすのは幸福感と充足、それとどうしようもないまでの情欲。
抱き寄せて唇をむさぼれば、微かな抵抗を示しながらもぎこちなく応えてくる。
ずっと欲していた相手からそんな初々しい反応を返されると情欲が更に深まる。
凶暴なまでの征服欲がじわじわと湧き起こる。

長い口付けから開放すれば頽れるように身体を預けてくる。
見上げてくる瞳は潤み、頬は薔薇色に染まっていた。
淫猥な意図をもって上気した頬を包み込む。
だが、それ以上は何をすることも出来なかった。

潤んだ瞳から一片の雫が音も無く零れ落ちた。
唐突な事態に困惑するしかなかった。
相手は拒絶するようにわずかに身体を引き離し、うつむいた。

「ごめんなさい」

小さく告げられるのは謝罪の言葉。
けれども何に罪悪感を感じてのことかはわからなかった。

「ごめんなさい…」

今にも消えてしまいそうなほど小さな、けれども痛みに満ちた言葉だった。

「あなたのこと信じられない…」

告げられた言葉は鋭い刃となって胸をえぐった。
それは当然の結果。
相手が自分を信じられずとも、不思議ではない。
それだけ、他人に対しては不誠実に接してきた。
生真面目で優しいこの相手が応えてくれたのが不思議なほどだ。
相手が謝ることではない。
それなのに信じられないことに傷ついている。
傷つく必要など無いのに。

背に回していた腕に力をこめて細い身体を抱きしめる。
抱きしめればすがりつくように身を寄せてくる。
初めて知った痛みは悲痛となって心を苛む。
改めて違いを思い知らされた気がした。

「お前が悪いんじゃない」

慰めたかった。必要のない痛みを少しでも和らげたかった。
自然と触れる手が優しくなる。

「お前は悪くない」

ありきたりな言葉だ。
そんな言葉しか告げられない自分に嫌気がさす。
腕の中で声を殺して相手は静かに泣いていた。
零れ落ちる涙の一片一片が針のように突き刺さる。

「つよくなるから」

涙にかすれた声で相手は呟く。

「あなたのこと、信じられるくらい強くなるから…」
作品名:Tears - side B - 作家名:夢宮架音