Tears - side A -
霞む視界に相手の困惑した表情が移る。
視線を合わせられるはずもなく、うつむく。
「ごめんなさい」
こんな言葉を伝えたいんじゃない。
「ごめんなさい…」
こんな言葉、本当は言いたくなんてない。
けれど胸を刺す痛みが、自分の弱さが、相手を傷つける言葉を紡ぐ。
嬉しかったの。
あなたが名前を呼んでくれて。
あなたが好きだと言ってくれて。
あなたが抱きしめてくれて。
ただ、それだけで嬉しかった。
たったそれだけのことが幸せだった。
それなのに私は…
「あなたのこと信じられない…」
信じたい。
けれど心は見え隠れする他人の影に怯えてしまう。
信じたいのに、弱さが相手の想いを否定する。
ただ、からかわれているだけなのではないかと疑ってしまう。
そんなはずはないと必死に言い聞かせても、性急に体を求められれば押し込めていたものが溢れ出した。
力強い腕が優しく抱きしめて、ぬくもりをくれる。
大きな手が頬を包み込み、いつもとは違う、触れるだけのキスが与えられる。
頬に、瞼に、額に、唇に。
なだめるようなキスがいくつも降り注ぐ。
「お前が悪いんじゃない」
告げられる言葉はただ優しくて、涙が溢れそうになる。
あやすように、髪を撫でられる。
「お前は悪くない」
再び優しい言葉が告げられる。
与えられる優しさに、こらえきれなくなって静かにむせび泣く。
体を包むぬくもりはただひたすらに優しかった。
「つよくなるから」
弱い自分が嫌だった。
弱さに甘えて大切な人を信じられない自分が嫌だ。
「あなたのこと、信じられるくらい強くなるから…」
だから、お願い。
どうか私を嫌わないで。
作品名:Tears - side A - 作家名:夢宮架音