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BLEACH NL中心詰め合わせ。

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Love Songs / 春七・2004.2.14


 その日の夕方、伊勢七緒は詰めていた書庫から出て食堂に来ていた。隊長の春水が溜込んだ書類をチェックするのに時間がかかり、朝食べたきりでお茶しか口にしていなかった。
 提出書類はいつも〆切りギリギリ、毎日の朝会には出ない、勤務時間中はどこにいるのか分からないこともしばしば。そのツケが自分に回ってくることに問題はないのだが、なんでこんな男を隊首に置いたのか、上の考えがよく分からない。
「それにしても…」
 うどんを啜りながら、来る途中に会った人達の様子に首を捻り、独りごちた。皆、どこか挙動不振な風がある。もしや、自分が書庫に閉じこもっている間に何か特令でも下りたのだろうか。だとしたら、自分の所に連絡がないのはおかしいことだ。食事などしている場合ではないのかもしれない。
 箸の先を噛んだまま考え込んでいると、後ろから肩を叩く者があった。
「こんな時間にもうゴハン?適当な時間に食べると肌によくないよ~?」
「松本さん」
 柔らかそうな栗色の髪、大きく胸元を開けたところにけだる気に帯を巻いた独特の着こなしで、松本乱菊は
「そのお茶、もらっていい?」
 と七緒の飲みかけの湯飲みを指した。差し出された湯飲みをかたむけて一息つくと、
「ったく落ち着かないわね、今日は」
 と七緒に同意を求めるように言った。
「やはり何か特令が…?」
 目元の険しくなった七緒をきょとんとしたように見つめ、あぁ、と声なく言った。
「伊勢さん、今日のこと知らないんだ?」
「今まで書庫にいたので…何があったんです?まさか旅禍……」
「違うよぉ、これこれ、バレンタイン」
 乱菊の言うには、誰が仕入れてきた情報かは知らないが、この時期に人間界で騒がれる『バレンタイン』の習慣が急に流行りだしたのだ。そのせいで、皆の様子がおかしかったのだ。
「あきれた……」
 七緒は愕然としたように言った。秩序を護らなければならない自分達が、そんな馬鹿げたことに浮つくなんて。
「そうバカにしたものでもないよ」
 乱菊は言った。
「普段は真面目に勤めてるけど、中には流魂街出身で…まぁあたしもだけどさ、元人間のヤツらなんていくらでもいるんだもん。懐かしいんでしょ、こういうコト。…なかなか楽しいよ?あたしも隊の野郎共に義理チョコあげたし。すっごい喜ぶんだもん、こっちまで嬉しくなっちゃう」
 そうくすぐったそうに笑うと、隣で憮然としている七緒の手に、袂から出した黄色の包みを握らせた。
「たまにはいいじゃない。あんたもあげてみたら?京楽隊長に」
「な、なんでそんな」
「部屋で寝てたわよ~隊長サン。じゃあね、あたしもウチのボーヤ見つけないと」

◆◆◆

「失礼します。…隊長?」
 チェックの終わった書類の束を持って、七緒は春水の部屋を訪れた。呼び掛けに返事のない時は勝手に入ることを許されている。
 上がって行くと、春水は机の脇で鼾をかいていた。
 提出書類は〆切りギリギリ、毎日の朝会には出ない、勤務時間中はどこにいるのか分からない。いつも面倒ばかり押し付けて、怒ると謝りながら子供のように笑う。なんで、こんないいかげんな男を…。
 自分の心が分からない。
 書類を机に置き、七緒は乱菊からもらったチョコレートの包みを寝ている春水の胸の辺りに投げ付けた。こんないいかげんな男に胸を掻きむしられる。好きだとかなんだとか、そんな生半な思いで片付くものなのか。七緒は唇を噛み締め、踵を返した。
 …が、すぐに笠を被って眠る春水を振り返った。
「お目覚めですか」
 足首を、春水の骨張った右手に捕まえられていた。
「ウン、おはよ。七緒ちゃん」
 大きなアクビを一つ、春水は起き上がると懐に左手を突っ込んでぼりぼりと掻いた。
「丁度よかった、こちらの書類に印鑑を。提出は明朝です。私は残りの仕事がありますので、これで」
「うん、ありがとね……七緒ちゃん」
「なんでしょう」
「ありがとね」
 そう言った春水の手には、チョコの包み。七緒の顔が見る間に紅潮していく。
「他意はありません!そんなもの御歳暮と同じです!…ハ…ハンコ、ちゃんと押しといて下さいよ!いいですね!?失礼します!!」
 バタバタと部屋を走り出て行く七緒の後ろ姿を肘枕で見送りながら、春水は嬉し気に目を細めた。
「…ったくも一…かわい一んだから」

          ■END■
作品名:BLEACH NL中心詰め合わせ。 作家名:gen