奈良と蘭都の八重桜
001 偶然
私は、どこにでもいる平凡な小学五年生だ。
唯一の特徴といえば、耳がいいことと、字が上手いことくらい。
誕生日は、1999年7月7日。
7月7日なのは嬉しいけど、それによって何か得することがあるわけでもない。
だけど私には、クラスメイトや普通の子は知らない――親友の美弥、蓮は例外だけど――ある組織に加わっている。
スペシャルアビリティ。通称“スペアビ”。名前の通り、特別な能力を持った者の集いということだ。
だがしかし、それは表の姿。確かに特別な能力を持った者だけが集まっているのだが、実はスペアビは、普通のヒトから見るといわゆる「ファンタジー」というのか、それとも「幼稚っぽい」とでも言うのか――とにかく、普通のヒトでは信じられないような不思議な出来事を、日々の活動で報告し、偵察し、解決するという、探偵事務所のようなものだ。
私が、正体を初めて知って入部したときにつけた名前は「ファンタジー事件解決探偵団」である。
そして私は、いま、スペアビの会議室の一角の机に座っている。
目の前には、スーツを着こなした、クールビューティーで若い女性――若宮泉と、教壇のようなところに座った男性――レオが見えている。
「これより、スペシャルアビリティの活動報告および会議を始めます」
「よろしくお願いします」
一同がいい、頭をさげる。
「では、活動報告をはじめます。報告する班の発表代表者は立ってください」
泉が淡々と進行を進める。
「ではこちら側からどうぞ」
泉は切れ長の目で、端の席の男の人をチラリと見る。
「は、はい――」
男の人が、持っているメモに目を移し、報告を始める。
やがて、私たちの班――八班の番が回ってきた。
発表代表者は、美弥だ。
美弥は、IQ250という驚きの脳みその持ち主だ。テストで100点以外を取っているのを見たことがない。
「先週――六月三十日に、船穂区巴跡公園に光龍の使いが飛んで来ました。光龍の使いに案内された公園内の鉄棒の棒の部分にはペンで「助けて」と書いてあり、筆跡を調べてみると天界の者が書いた文字だということがわかりました。以上です」
光龍の使いというのは、スペアビに協力してくれる“あやかし”だ。
龍の小さい版みたいなので、光っている。そして空を飛べる。まあ、龍だからあたりまえだけど。
「では――」
泉が言いかけたとき。
突然、床が消えた。
「きゃあ!」
私は叫んで、周りを見る。
会議室の床はなくなっていて、代わりに大きな穴が開いている。
そして私たちは、どんどんどんどん穴を落ちていった――。