ともだちのしるし
五月六日(木)「白がくれたもの」
いつもと同じ学校。いつもと同じ教室。いつもと同じクラスメイト達。いつもと同じ昼休み。だけど私自身は、いつもと違っていた。
「なんか良い事でもあった?」
向かいに座る愛華ちゃんが、私の顔を覗き込む。私はどうやら、お弁当を食べながら笑顔が零れていたらしい。
「良い事なのかは分からないけど、私の中で、何かが変わったような気がするんだ」
「ふーん。でも、その顔を見てると良い方に変わったって感じがするよ」
「そ、そうかな?」
愛華ちゃんは、お弁当箱を鞄に仕舞う。私も、少し遅れてお弁当箱の蓋を閉じる。それを仕舞おうと鞄を机の上に置くと、緑のリボンに付いた鈴が、チリリとくすんだ音を立てた。
「なに? その汚い鈴は」
鞄の取っ手に結ばれた鈴を見て、そんなに汚い鈴を付けている理由が解らない、とでも言うかのように、顔をしかめながら聞いてきた。
「これ? これはね……」
しばらく鈴を見つめた後、私は微笑んだ。
「私の大切な、友達と勇気のお守り」
もう一度鈴を鳴らす。私には、心地良い音。純粋で、真っ直ぐで、心に響く音だった。
「私は間違ってたんだと思う。好きなものを好きと言う事、自分の気持ちに素直になる事と、その為の少しの勇気。これって大切な事なんだよね」
「突っ走り過ぎなければね」
白ちゃんと出会った時の事を思い出して、私はくすっと笑った。
「……私、やっぱり藤ノ宮さんと友達になりたい」
一番の願いを口にした。愛華ちゃんは、これから私が取ろうとしている行動を悟ったのか、
「あたしも一緒に行こうか?」
そう言ってくれた。私は、お守りを鞄から外して、両手で握った。
「ううん、大丈夫。この鈴が勇気をくれるから」
手の中があたたかい。両方の手の平から、白ちゃんの想いが私の中に流れてくる感じがした。
そして、私はまた微笑んで、憧れの人の机へと足を向けた―――。
◆ ◆ ◆
三ヶ月後―――
第二十五回 全国高等学校芸術祭
水彩画の部 最優秀賞
作品名 『 憧憬 ―少女と桜― 』
私立白百合女子高等学校 二年 如月美胡
― FIN ―