ブローディア冬
じっと下ばかり見ていたから日に焼けた石間の足首がひどく白いことに気付いて、そればかり眺めていた。
「木野、きいてんのか?」
「ああだから大丈夫だって」
「じゃあ顔上げろよ」
「………。」
石間の部屋の白い蛍光灯に浮き出された二人の白い足は、まるで水中にでもいるような感じ。俺の頭もそんなかんじだけど。
ぼんやりしてる俺にじれた石間は乱暴に浴衣をひっぺがした。俺は石間と違ってどこもかしこも真っ白い。その肩からも白い浴衣がシュッと外された。
「なっ、石間なんだよ急に」
「あいつら、あいつらに何か……」
「痛いっ」
「なんもされてねえだろうな……木野……」
俺がパンツ一丁になったところでくるくる回されて、次に石間と目が合った時に抱き締められた。すると不思議なもので、緊張がとけた俺たちはぶるぶると震え出した。
「木野、もう離れんなよな」
「大丈夫だよ。金渡しただけで」
「渡したのか」
「うん」
石間はちくしょう、と言って、少し前にあいつらを殴った拳を俺の裸の肩に置いた。熱い。
石間はあこがれの的だ。かっこいいのは当たり前だ。怖い石間という石間は夜の街に溶け込んでいた。俺を抱えるようにして小さく歩いていた彼は俺には大きく見えた。
「石間、怖い顔すんな」
「してねえよ」
「中学の時ってなにをしていたんだ、石間は」
「それ聞くかよ」
ふうと息をついて離れた石間はいつものように笑っていた。
口の端をクッとしているのが大人のようで目を逸らす。
「怖かった」
「ごめん」
違うんだ。
俺の知らない石間がどっかいっちゃうんじゃ無いかと怖かったんだ。
「俺も怖かったよ」
「石間も? 殴るのが久々で?」
「ばーか」
もう一度俺にすり寄ってきた石間を抱き留める。石間は拳を開いたり閉じたりした。
「こんな俺ダセエかなって」
「わからない」
「どういう俺がいい?」
「ずっと俺のこと見てる石間がいい」
石間はきょとんとして俺の頭をひと撫ぜして、わっはっはっと笑い出すと同時に体中を撫ぜ回した。
「あっはっはっはっ、木野おー」
「石間、涙でてるぞ」
「だから怖かったんだってば」
「俺の方が怖かった」
「うんごめんな」
「うんごめん」
俺たちふたりの間で潰された紫色のネコの縫いぐるみは、石間の手でぽいっとどこかへ放り投げられた。
次に石間のおばさんに会う時、浴衣に染みをつけてシワシワにしてしまったこと、ちゃんと謝らないといけないな。
そんなことを、もう雪も積もった今頃に思い出した。写真は催促しないと貰えなさそうだ。
おわり