魔法使いの夜
夕方もう一度集まろうと約束して解散したけど、ケンがじきにぼくのところへやってきた。
「ジュン。気にしてるんだろ? 昨日ユウジがいったこと」
「え?」
ぼくはどきっとした。どうしてケンはぼくの気持ちがわかるんだろう。でも、なんだかユウジのことを悪く言ってしまいそうなので、下を向いて黙っていた。
「ユウジに悪気がないのはわかってるよな」
ぼくは大きく首を縦に振った。
「でも、気になるのはわかるよ。おれもさ、よそものだから」
ケンのことばは意外だった。だって、ケンはみんなのリーダーで、あんなにうまくやってるじゃないか。
「おれさ。小学校にあがるころ、関西から来たんだ」
「ええ、うっそだあ。関西なまりないじゃん」
「おれの本当の両親は関西の人間なんだ。ばあちゃんの妹が関西にお嫁にいって父さんを生んだんだ」
ケンは事故で両親をなくし、おばあちゃんの息子夫婦の養子になったんだという。
「だから、今のおれの父さんと駐在所のおじさんは本当の父さんのいとこってわけ」
ぼくには信じられなかった。ケンにそんな過去があったなんて。
「最初はおれが口をきくたびに笑われたよ。とくにノブなんかみんなの前でおれのまねしてさ。笑いものにしたんだ」
「信じらんないよ。あんなに仲がいいのに」
「おれ、必死でこっちのことば覚えた。早く新しい両親にも、友達にもなじもうって」
「うん」
「ところがさ、ちがってたんだ。おれのやることなすことからまわりでね。よけい笑われるんだ」
「どうして?」
「うん。自分を無理して作ろうとしてたからかな。で、ある時ノブと大げんかになって、とっくみあいさ。でも、力はあいつのほうが強いし、けんかなれしてるだろ。とうぜんおれは負けたけど、しつこくくいさがってさ。おれの言いたいこと関西弁で言いまくったんだ」
「うん」
「そしたら、ノブがおれのことすごいって認めてくれたんだ」
「へえ」
「それで肩の力が抜けて、ありのままの自分を素直にだしたんだ。そのうち自然にこの土地になれていたんだ」
「そう」
「うまくいえないけどさ。おれとジュンは違うけど、でもジュンはもっと自分をだしていいと思うよ。いっそのことよそもので悪いかって居直っちゃうとか」
「う…ん」
ぼくはあいまいな返事をした。
「ジュンは自信がないんだろ。ここにいる自分にも、東京にいる自分にも」
「……」
「いつも気になってたんだ。ジュンは東京の話をちっともしないだろ。もしかしたら友達がいないのかなって」
胸の奥がきゅうんとなった。ケンの言うことはいちいち当たってる。
「おれ、思うんだけど。自信って、自分を信じることじゃないかな。それで変わることも進むこともできるんじゃないかな」
ぼくはくちびるをきゅっとかんだ。くやしいんじゃない。なにか言おうとしたら泣きそうだったから。
「お説教みたいなこと言ってごめん。でも、みんなジュンのこと友達だって思ってる。もちろんユウジだって」
ぼくはずっとうつむいていた。ケンの気持ちがうれしくて。でも声が出なかった。ケンは黙って帰っていった。