偽善者賛歌13「金曜日」
父親。それは概して年が離れた存在であると思われる。どういうことかというと、要は実父にしろ養父にしろ、その対象が子供であるが故に大事にして育て、大人にする、というものであるか、もしくは自分の跡継ぎとして、そうすれば当然長きにわたって続かしめるものだろうと、そういう風な考え方を、しかしながら半ば無意識に持つものである。
古巣アパートの大家、古巣大也は、しかしそんな常識とはかけ離れた境地にいる。年こそ下だが、対して親子といえるほどではない6年下の娘が居る。法律上に乗っ取って正式に娘としているんだから問題ない。彼女が事故って危機に陥ったときに、輸血すらしているんだから、まったく血の繋がりもないわけではない(誰がこれを詭弁と呼べようか?)そういう事情の元、古巣は生活している。嫁はいないし、結婚しようという相手が現れることもなく、結婚していた事実もなく、ただ娘が居る。なぜ結婚ではないんだ、時枯れると彼は決まってこう答える。
「相手に俺の面倒なんざみてもらおうと思っちゃ居ねえからな」
それでも彼は繋がりを求めた。おそらく生涯でも空前絶後のことだろう。その相手は、そんな彼を真の善人というが、自信にそんな自負はなく、そもそも、その概念が理解できない。いい人ぶるつもりもないが、だからといって謙遜しているわけでもない。
「いいな、と思った女に迷惑かけたくないのはただのエゴイズムじゃないか」と。それは自分のプライドに起因するものであって偽善にほかならない。
「だってあなたはわたしをそうしたからってなんにもメリットはないじゃないですか」
「自己満足できるけど?」
なんのことはない。お前を妻とするならばお前に頼ることになるじゃないか。関係性は持ちたいけど、そんなのは苦痛だ、耐えられない。それは決してきれいな心ではあり得なくて、むしろ汚れきったプライドだけ高い男にしかかんぜられないんだよ、と。本当にいい人ならば、関係性なんか持たないんだよ。それでも納得しない。人にはずばずば、あなたは偽善者だとレッテルを貼り付け回って居るくせに、義理の父に気を使わなくてもいいのに、といえば、気を使っているんじゃなく素直にうれしいんです、という。
考えても無駄かもしれない。ただ自分は彼女を娘と呼ぶ。それはただのプライドなんだって。そして、それをプライドと認めてくれたっていいじゃないか。男はプライドと呼べるものがすべて打ち壊されたら生きていけないんだって。日頃飲んだくれて髪はボサボサでも、そういうものはほしいんだよ。
なあ、哀憐。彼は今日も自分の『娘』のことを想起している。
作品名:偽善者賛歌13「金曜日」 作家名:フレンドボーイ42