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kisses.【栄口総受】

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07 なぐさめの唇(水谷→栄口→?)



 泣かないで、泣かないで。
 オレは必死に叫んでいるのに、その声は栄口には届かなくって。
 小さく丸くなって泣いてる栄口は、どんどんオレから遠のいて、ふっと消えた。

「……夢、かよぉ、」
 オレは枕元の携帯を手探りで掴むと、時間を確認する。
「……4時前とかって…微妙すぎる…」
 早すぎる朝練に合わせて起きるため、ここのところ4時半起きだったのだけど、今のこの時間じゃ、もう一眠りするには時間が足りなさすぎるし、起きるにはちょっと悔しいのだ。
「なんで、あんな夢。」
 仕方がないので、ベッドの中でごろりと寝返りをうちながら、今見た夢について思いを巡らせる。
 夢を見ていたのはつい3分前のことなのに、もう記憶が薄れてきてて、栄口が声もあげずにハラハラと泣いていたことと、自分が一生懸命声をあげて栄口を呼んでいたこと、最後に栄口はとけるように消えてしまったことしか覚えていなかった。
 理由だとかはまったくわからない。ただ。
「やっぱ、これってオレが栄口のこと好きだからだよねぇ……。」
 ここのところ、栄口がふとした時に落ち込んでいることがあって。
 それはホンの一瞬だったから、他のヤツラは気づいてないみたいだけど、毎日栄口のこと見てたオレは気づいてしまった。
 栄口があいつのこと、好きなんだってこと。
「それにしても……変な感じ!」
 いくら理由が何となくあるとはいえ、脈絡が無さすぎるのだ。
 こーいう時のやな感じは、オレは結構当たる。
 今日のこの夢も、そうだったのだということを、オレは半日後に思い知る。



「うっわ、やっべぇ! まだ部室開いてっかな…」
 明日小テストがあるのに、ノートを部室に忘れていってしまい、オレはみんなには先に行ってもらって部室に取りに戻ったのだ。
 今日の鍵当番は栄口で、部誌も書くって言ってたから、もしかしたらまだいるんじゃないのか、なんて淡い期待。
 はたして部室棟の前までチャリを飛ばしてくれば、まだ灯っている部室の明かり。
 オレはほっと胸を撫で下ろした。
 とんとんとんっと軽快に部室への階段を上ってドアを開ける。
 『いやぁ、忘れ物しちゃったよぉ~、』と続けるはずだった声を、オレは慌てて飲み込んだ。
 部室には確かに、栄口がいた。いた、けど──
 書きかけの部誌を開いたまま、頬杖をついて窓の外を眺めて。
 自分が入ってきたことなど、意にも介せずに。
 すうっと頬を流れた一筋の涙に、ぐっと胸が詰まった。
「さか、えぐち……、」
 思わず呟いてしまった名前に、栄口ははっと顔を上げて、慌てて目元を拭う。
「……水谷じゃん、どうしたの?」
 そこにあるのはもういつもの笑顔だ。
 なんで、無理すんの。泣きたいんでしょ? こんなところで一人で泣いてたの?
「オレは──忘れ物取りに来ただけ。栄口こそ、どうしたの…?」
 栄口はオレから視線を逸らすと、『別に何も、』って逃げるように言う。
 ……何もないワケ、ないだろ。だって、今。
 オレは栄口が座っている席の椅子を乱暴に引くと、どかりと腰を下ろした。
 普段のオレらしからぬ雑な動きに、栄口は驚いて目を瞠る。
「そんな顔してて、なんもないワケないデショ。……そんなオレって頼りない?」
「そんな、こと…ッ、」
 それでも栄口からは言い出しにくいのか、ぐっと口唇を噛んで堪えているから。
「……失恋でも、した?」
 そうオレはカマをかけた。
 『失恋』の二文字に栄口の背中がびくりと揺れる。オレも意地が悪い。栄口が誰のこと好きか知ってるくせに。
「……そんな、イイもんじゃない、よ。」
 ふう、と息をついて、栄口は力なく笑う。
「気持ちを伝えたわけでもないし。ただ……アイツが他のヤツと幸せそうに笑ってんの見て……、」
 感情が昂るのか、そこで栄口は声を詰まらせる。
 大きな目に、みるみるうちに涙がたまって──溢れた。
「ごめ……ッ、」
「いーよ。スッキリしちゃいなさい。」
 泣きながら俯く栄口の頭を、オレは宥めるようにぽんぽんと撫でる。
「……自分の好きなヤツの幸せを、なんで喜べないんだろうって…っ、」
「そりゃそーだよ。……オレだって、そう、だよ。」
 栄口が、え? と顔を上げてオレを見た。
「オレだって、好きなヤツが他のヤツとうまくいっちゃったら喜べない。めちゃくちゃ落ち込むって。」
 自分の気持ち肯定されて、また、栄口の目から涙が零れる。ああ、もう。そんなに泣かないで。
「だから──不謹慎だけど、オレ、今ちょっとホッとしてるよ。」
 話が急に見えなくなって、栄口が言葉を失っている間に。オレは目尻の涙を吸うように口唇で触れた。
「……っ!」
 反対側も、頬に残る涙の筋にキスをする。
「み、ずた、に…ッ!」
 引こうとした身体を、反射的に捕まえて。
「ごめん……っ、…好き、なんだ……ッ、」
 オレは真剣な瞳で真っ赤になっている栄口の顔を見つめる。
「お願い、だから、泣かないで……、」
 その言葉で、また栄口の双眸から涙が零れた。
「……オレじゃ、ダメ、かな? オレ、栄口のことすっごく大事にするよ?」
 まだ涙の流れる頬をそっと手のひらで包む。
「……っく、…ぁって、」
「……好き。」
 すぐじゃなくてイイ。
 ゆっくり、オレと向き合って。
 泣きじゃくる栄口の涙を親指で拭うと、オレは栄口の口唇にキスを落とした。
 栄口とのキスは、涙の味だった。



作品名:kisses.【栄口総受】 作家名:りひと