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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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新説御伽草子~桃ねーちゃん!

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 京の都に入って一行は別行動を取ることになった。雉丸は物資の調達など、ポチはそれについて行き、猿助はたぶん美人のねーちゃんでも探しに行ったのだろう。
 かぐやは桃に引きずられて歩いていた。
 人の集まりそうな広場にやってきた桃は、かぐやの胸倉を掴んで自分の顔に引き寄せた。
「ここいらでやろうかね」
「えっ、何を?」
「とりあえずコレに着替えな」
「はっ?」
「いいからさっさと着替えればいいんだよ!」
「は、はい!」
 衣装を受け取ったかぐやは怯えながらも、ちょっとうつむいてボソッと呟く。
「いつか絶対復讐したる」
 今は怖いからできないけどな!
 ところで謎の衣装を受け取ったのはいいが、これって何の衣装?
「桃のお姉さま、あのぉ〜、これって網タイツと……」
「スク水だよ。本当は別の物が欲しかったんだけど、子供用がなくてねぇ」
 物陰で着替えさせられ、最後に桃が鎖の首輪をかぐやに巻いて完了。
 そして、桃は大声で人を集めた。
「てめぇら、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。世にも珍しい天然物のバニーちゃんだよ、しかも幼女ときたもんだ!」
 横にいたかぐやが眼を剥く。
「はっ?」
 そんなかぐやのことなど構わず、桃は集まってきた聴衆に向かって話を続けた。
「今からこのバニーちゃんが火の輪をくぐってごらんに見せましょう!」
「はっ!?」
 意味がわからない。かぐやは完全に置いてけぼりだった。
 いつの間にか曲芸でよく目にする火の輪が用意されていた。
 そこをくぐれと言うのですか?
 訴えかける目でかぐやは桃を見つめるが、まったく取り合ってくれる気ゼロ。
「このバニーちゃんが見事に火の輪をくぐりましたら、おひねりを投げてくださいな。よし、そら行けバニーちゃん!」
「はぁっ!?」
「早く行きな!」
「なんでかぐやがそんなこと!」
「自分の飯代くらい自分で稼ぎなよ!」
「火の輪なんかくぐったことないし、アホでしょ!」
「さっさとくぐりゃーいんだよ!」
 桃はかぐやのケツを蹴っ飛ばした。
 燃えさかる火の輪が眼前まで迫り、かぐやは冷や汗を垂らしながらストップした。
「できるかボケ!」
「できなくてもやれ!」
 そんな無茶苦茶な。
 でも、桃はやらせる気満々。かぐやを担いで人間ロケットを発射しようとした。
「うおりゃーっ!」
 かぐやロケット発射!
「死にたくなーい!」
 かぐやは劇画な形相で自らの首から伸びていた鎖を登った。火の輪をくぐるより、こっちのほうがスゴイ曲芸だ。
 桃のところまで登ってきて力尽きたかぐやは、地面に両手両膝をついて息をゼーハーゼーハー。
 それを見た桃は態度を軟化させた。
「仕方ないねぇ。あんたの根性に免じて火の輪くぐりはなしにしてやるよ」
「最初からやらせんなよ……ボケ」
「そういうわけだから、この天然物のバニーちゃんを買いたい奴はいないかい!」
 競売だった。
 鼻の下を伸ばした男が手を挙げた。
「金一〇枚!」
「俺は金二〇枚出すぞ!」
 桃は首を横に振った。
「まだまだ安いね、もっと出す奴はいないのかい?」
 平然と人身売買をしようとする桃の胸倉に、鬼の形相でかぐやが掴みかかった。
「おんどりゃー、マジで売る気かボケナス!」
「見てのとおり口は悪いが元気の証拠。この可愛い口が言ってるんだ、多少の罵詈雑言は許してやりな。というわけで、誰か買う奴はいないかい?」
 もう売る気満々。
 いつの間にかできていた群衆の中から、烏帽子(えぼし)をかぶった眼鏡の少年が出てきて手を挙げた。
「金三〇〇枚で僕が買おう」
 人々がざわついた。
 誰かが畏怖を込めた声でこう呼んだ。
「安倍晴明(あべのせいめい)さまだ」
 名を呼ばれた少年――晴明はそちらを振り向くことなく、まっすぐかぐやに向かって歩いた。
「珍しい妖魔だ。おもしろい研究ができそうだね」
 見た目は少年だが、その顔つきは妖しく大人びている。
 が、次の瞬間!
「うわーマジで可愛いよこの妖魔。今から僕のペットになるなんて、ふふふっ」
 晴明はかぐやに抱きつこうとして、周りの白い視線を感じて咳払いを一つ。
「コホン、持ち合わせだけでは足りないので、前金で金一〇枚払おう」
 真面目な顔つきになった晴明が財布を出して、金を桃に渡そうとしたとき、誰かが叫んだのだ。
「あやかしだ!」
 光り輝く毬のような球体――オーブが宙に浮かんでいる。
 晴明が声を荒げる。
「出たな鈴鹿(すずか)御前!」
 オーブは晴明に向かって飛んできたかと思うと、急に掃除機のように周りの空気を吸い込むはじめた。
「しまった!」
 晴明が叫んだと同時、手に持っていた金がオーブに吸い込まれてしまった。
 すぐにオーブは飛んで逃げようとする。
 それを桃が逃がすわけがない!
「アタイの金!」
 だって金がかかってますから!
 オーブは風よりも早く飛ぶ。
 桃は鎖を握ったまま都を爆走した。
 ドン、ガン、ボン、ぎゃっ!
 走る桃の真後ろから悲鳴が聞こえたが気にしな〜い♪
 足には自信のあるというか、全般的に自信のある桃だったが、オーブとの距離はどんどん開いていく。
 オーブを追う桃の目に見慣れた顔を飛び込んできた。
「邪魔だ退け!」
「姉貴、そんなに慌てて……オレの胸に飛び込んで……ぐはっ!」
 目の前に現れた猿助の顔面を踏み切り台にして桃は高く跳躍した。
 が、猿助と物体Kと鎖がこんがらがって、鎖を握ったままだった桃は大きくバランスを崩して地面に落下した。
「ぎゃっ!」
 猿助が短く呻いた。
 地面につぶれた猿助の背中には桃の尻が乗っていた。
「くそーっ、逃げられた!」
 それどころではないのが約二名。
 無罪なのに市中引き回しの刑の疑似体験したかぐやは全身ボロボロ。
 座布団にされた猿助はちょっぴり幸せそう。
 すぐに晴明がこの場に駆けつけた。
「あのオーブはどこに?」
「見失ったに決まってるだろう!」
 オーブを完全に見失ってしまった桃は爆乳を揺らしてご立腹だ。
 だが、金づるはそこにいる。
「金三〇〇枚、払ってもらおうか?」
「ふむ、いいだろう。では僕の屋敷に案内しよう」
 こうして桃たちは安倍晴明の屋敷に招かれた。

 板の間にある祭壇に飾られた鏡。
 鏡には六人が映り込んでいた。
 あぐらを掻く桃と、合流した下僕三人と売り物一匹、それと後から現れた晴明だ。
「約束の金三〇〇枚だ」
 晴明は風呂敷を解き中身を見せた。
 これで契約成立だ。
 ポチが泣きそうな顔をして声をあげる。
「姐御さんひど〜い!」
「アタイのやることに文句あるのかい。かぐやだって金持ちに貰われたら幸せだよ」
 桃はかぐやに目を向けた。
「うーうーっ!」
 かぐやは猿ぐつわを噛まされ、手足を縛られ呻いていた。イモムシのようにくにゅくにゅもがいている。
 それを見た桃がかぐやの気持ちを代弁。
「かぐやだってあんなに喜んでるじゃないか」
 絶対に違う。
 猿助と雉丸も別に止めようとしてなかった。
「オレは最初からガキと一緒に旅なんかしたくないんだ。ついでにポチもここに置いて行っちゃえよ」
「ならガキのお前も置いていこう」
 と、雉丸は猿助を睨みつけ、話を続ける。