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愚者
正位置は冒険、無知。
逆位置は軽率、愚考。
「かあさん・・・・・・。」
僕は、白い布がかけられた顔を見つめ、一言呟いた。
震える手でその布をめくると、青白い、よく見馴れた顔があらわになる。
『母さん、本当に死んだんだ・・・・・・。』
僕は再び現実を突きつけられた。
僕の家は貧しかった。だけど幸せで溢れていた。
父さんのことはよく覚えていない。僕の父さんは冒険家だった。
僕が生まれた頃から家にはおらず、いつも母さんと二人暮らし。でも母さんは決して文句は言わなかった。逆に母さんは父さんのことを笑顔で話していた。
父さんは、銀河の降る場所を見つけた人なのだと・・・・・・。
一度、僕が小さい時、父さんは家に帰ってきた。
たった一晩しかいなかったけど、父さんは僕を膝の上に乗せて言った。
「世界は広い。見るものは沢山ある。」
そして笑った。
次の日、目が覚めると父さんはもういなかった。
10年後、母さんは病気で倒れた。
余命1ヶ月と宣告され、その日から母さんはベッドの上でずっと過ごした。
母さんが死に向かう日々。それはとても急速で・・・・・・。
母さんは死ぬ前、泣きじゃくる僕に優しく声をかけてくれた。
「泣くことはないのよ。私は死ぬわけじゃない。
体は死ぬけど、魂は旅に出るの。
この広い世界を見に行くのよ。父さんの見つけた、銀河の降る場所へも行けるの。だから笑って。笑って、あなたも旅に出るといいわ。銀河の降る場所に母さんはいるから・・・・・・。」
これが、最期の言葉だった。
母さんの葬儀には、村の人たちが沢山来て、沢山泣いてくれた。
葬儀が終わってすぐ、僕は荷物をまとめた。
どこかへ続く道を、ゆっくりと歩いていく。
空を見上げると、沢山の星が瞬いていて綺麗だった。
この星が、降る場所を目指して。
そこで僕は、母さんにも、もしかしたら父さんにも会えるのだろうか。
『6 Lovers』
恋愛
正位置は恋愛、快楽
逆位置は嫉妬、裏切り
そうよ、私は可愛いとか美人だという部類には入らない。
性格も少し歪んでるし、友達も少ないの。
だけど、彼はそんなこと全然気にしなかった。ありのままの私でいてくれたらいい、
ありのままの私を僕に見せてくれ……彼はそういった。
私はそんな彼をとても愛していたのに……。
『好きな人ができたんだ。僕と、別れてください。』
『………え?』
彼にそういわれたとき、私の頭は真っ白になった。
どうして……?
なんで……?
私ではだめなの?
家に帰れば、彼の荷物はなくなっていた。
彼の香りが残る部屋の中で、私の目からは涙が流れるばかり。
私は……彼と一緒にいたいのに。
次の日、私は彼と微笑んでいる一人の女性を見かけた。
私と違い、とても美人で頭もよさそう。品のある、お嬢様。
その人がいるだけで、周りの空気が華やいで……。
私とは……生きている世界が違う。
それだけを、確信した。
帰り道をどう帰ったかわからない。
とにかく気付いてみれば、私の手には包丁が握られていて。
なんで私、包丁なんか握って、彼の家の前に立っているんだろう……。
月夜に照らされて、ぬらりと光る包丁を見て私は思い出す。
そうだわ、私これで………
「……君?君じゃないか。どうしたのそんなとこにたっ……」
仕事帰りの彼が、私の姿を見つけて優しい声をかけてくれた。
だけどその声は、小さく悲鳴に変わる。
私の手に握られた、冷たく光るものを見つけたから……。
にっこりと私は笑い、彼にゆっくりと近づいた。
「ねぇ、あなた。私あなたのことが忘れられないの。
別れるなんていわないで。私はあの人よりもずっとあなたを愛しているの。
だから、ずっと私と一緒にいて………。」
あぁ、これが女の嫉妬というものなのだろう。
私はこのとき、身をもって実感した。
そして………。
「お願い、私と死んで?」
彼の青い顔が忘れられなかった………。