笑門来福 短編集
ホワイトデー
講義が終わってもノートをとっている振りをして教室に残っていた。
ふと気づいて周囲を見回すと、残っているのは、男子学生ばかりである。そそくさと片付けて部屋を出た。
ゆるい日差しの中、キャンパスを横切って駅に向かった。ここかしこには、いつもよりカップルが多い気がする。
幼稚園年長組の時にはたくさんのチョコを貰った。本人の意思というよりも母親どうしがグループを作っていたからだ、と小学4年生の時に気付いた。
その時以降今に至るまで、バレンタインチョコとは無縁である。クラスの女どもを笑わせ、人気者だと思っていたのだが・・・。
家に帰り部屋に入ると、大きな溜息をついた。
パソコンを開いて、思い出した。
今朝早く、SNS小説投稿サイトのマイフレンドになっているBさんから送られてきた、アーモンドチョコがあった。ウィスキーチョコもあったのだが、びっくりしたことにそれには “歯” が突き立っていてどうしていいのか分からず、そのまま送り返したのだ。
多機能携帯電話の物質転送受信ランプが、赤く点滅しているのに気がついた。
AKB48のはるかちゃん♪ じゃなくってェ・・・吉永小百合ってとこかな、と思いつつケーブルに接続した。
小さい箱入りのチョコだった!! ヒャッホ〜♪
☆ ☆ ☆
3月14日、早朝から携帯電話をケーブルに繋いで待っていた。
アーモンドチョコ1粒ぐらいでなにかが送られてくるとは思っていないが、それでももしかして、という淡い期待があったのである。
ファンタジー小説を書いているFさんから、タンポポで作った手製のブレスレットが送られてきた。
現代小説のGさんからは、梅の小枝である。
ふたりとも、転送時に圧縮されて花が散らないように、透明の防護箱に入れていた。その心遣いが憎い。推測するに、ふたりとも年配者にちがいない。
ホラー小説のHさんからは、うぐいす餅である。なんで私の好物を知っているのかしらん?
きたきた・・・マイフレンドのKさんからも。私が送ったチョコレートの箱だ。折りたたんだB5サイズのケント紙が入っていた。
それを見て息をのんだ。
鼻翼がウズウズしてきた。
涙が盛り上がってきた。
決して上手とはいえないが、丁寧で心がこもっているのを感じることができる。
色鉛筆を用いて描いた赤いバラの花束と、1本のロールケーキ。
下の方に [これからもよろしくおねがいします] とある。
それは私が小説の中で書いていたもので、読みすごしてしまう程度のものだったのに・・・。
その絵を壁に張り、タンポポのブレスレットをし、梅の香りを嗅ぎながらうぐいす餅を一口かじった。
幸せの味がした。
2011.2.22