ダークネス-紅-
相手の妄執に呉葉はその場を動けず、避けなくてはと思ったときには遅かった。
炎に包まれた手が〈般若面〉を鷲掴みにしようとしていた。
刹那、魔気と共に輝線が走り、炎に包まれた太い腕が地に落ちた。
そして、炎に包まれた巨躯は最後の力が尽きたように地面に倒れた。
呉葉――紅葉自身の体力も限界だった。
ゆらゆらと足をふらつかせながら呉葉は壁にもたれ掛かった。
肉の焼ける臭いが辺りに漂い、呉葉の瞳に映る床に転がる黒焦げの巨躯と、無表情の白い仮面。
「紫苑か……またアタシたちは助けられた……いや、前に会ったときと雰囲気が違う」
「紫苑だ。無駄な詮索はするな。私が紫苑であることには変わりはない」
「……そうか」
そう言って呉葉は〈般若面〉を外そうとした。
だが、白い仮面は告げた。
「まだだ」
作品名:ダークネス-紅- 作家名:秋月あきら(秋月瑛)