ダークネス-紅-
「帝都警察のパトカーに追われてた奴らが落としていったらしい。俺はそれを譲ってもらったんだ」
「その仮面を売ってください」
「金なんていらない。この仮面、手に入れたときには思わなかったんだが、だんだんと気味悪くなってきた。この仮面をただでやるから、お前たちも早くどっかに行ってくれないか……商売の邪魔なんだ」
露天商の声は震えていた。
辺りの人々が露天を避けて大回りに歩いている。それに気づいた雅は仮面を受け取ると、俯いてお兄ちゃんを乗せた車椅子を押した。
仮面を手に入れた雅は潜伏先の安ホテルを探し、部屋に入るとすぐにカーテンをすべて閉めて電気を消した。
薄暗い部屋の中にお兄ちゃんの声が響き渡る。
「その仮面を被ってみたい」
雅は包帯の上から仮面をお兄ちゃんの顔に被せた。
暗闇の中で雅は眼を見開いた。
闇の中にあっても、すぐ近くで見ていた雅にはわかった。
仮面が包帯ごとお兄ちゃんの顔と融合したのだ。
雅はお兄ちゃんの頬に触れた。
皮膚の感触が指に伝わった。けれど、そこにあるのはもうお兄ちゃんの顔ではない。不気味に嗤う異形の顔。
そして、異形の顔についた魚のよう口が言葉を発したのだ。
「……も……みじを……犯……行く……」
作品名:ダークネス-紅- 作家名:秋月あきら(秋月瑛)