さよなら
じゃあね。と、あの子がこぼす。見送る彼等は、それをじっと見つめる。いつもはきらきらと輝くまん丸な目が、今日はただ光を放っているだけのようにみえる。恐ろしくもあり、悲しさもあった。
あの子はいってしまうのだ。何故、なぜ。いかないで。でもいくんだよ。
そんな会話があの人たちの間で交わされていたのを知っているあの子は、微笑んだ。白い帽子をかぶって、まだあどけない顔をしたあの子は、あの人たちが悲しんでいるのをしっているのだ。それでも、あの子はいってしまう。
いかないで、だめ、駄目。いかないで。
じゃあね。
まん丸な目を開いたままに、あの人たちはうったえる。でも、あの子は決めてしまっているのだ。
つばの広い白い帽子に白いかばん。そして白いワンピースをまとった彼女は、一番前にいたあの人たちの一人に、ぎゅっとしがみついた。
じゃあね、じゃあね、もう会えないけど、じゃあね。
変わった色の羽毛に顔をうずめながら、ささやくようにわかれの言葉をつげる。その様子を、あの人たちは厳粛な儀式が行われているかのように、じっと見つめ続ける。まん丸な目は、なおも光るまま。輝くことはない。
じゃあね、じゃあね。
いかないで。
白い帽子をかぶったあの子は走り去っていった。あの人たちは、細く長い巨躯をゆらゆらとゆらしながら、あの子を見ていた。
青い景色の中に、まん丸な目が八つ光る。その目はじっと、あの子の行く先を見つめ続けていた。