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しになさいへ

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目の前で亡霊が魂を食らっております。無表情です。がつがつと下品な食べ方をしておりました。時折手を舐めますが不快そうな顔をします。

 彼の左手に持たれたそれは濁り澱んでおりました。魂なぞ初めて見た私にも不味そうに見えます。亡霊は人を騙す。騙くらかして奪った魂を食らう。ねぇ、亡霊はこちらを見ようともしません。私の零した声の、みっともなかったこと。私は初めて彼に縋りついて懇願したいのだと気がつきました。

 亡霊の背中は丸まっていた。なぜ私の目の前で、食らわなければならないのか。彼が魂を食いつくしたら、今度はどこかへ行ってしまうのだろうか。苦しくって苦しくって、私は彼に近づいた。こちらを一瞥して、彼は飛んで行った。青い青い空にある一点の黒い染みだ。太陽の光で網膜が焼けたのか、彼の影をいつまでも記憶しているのかわからない。涙がでた。

 私の魂は一体どんな味なのだろうか。苦しい。あの亡霊を、わすれることができずに、棒から落ちたアイスをただ見つめるばかりのような日々である。滑稽だとわらってもらえもしないような人生をつんでいる魂は、いったい何色なのだろうか。
作品名:しになさいへ 作家名:ちや子