偽善者賛歌06「来留咎」
明石は思った。橋本が死んだ、という。倉敷が死んだのよりも話に脈絡がないなあ、と思った。昨日突然叫びはじめ、眠れないから文句でも言いにいこうかと靴を履いていると落ちる音がして死んでいた。まあ、自殺というものの一巻だろう。さすがに度胸はあっても胸糞悪いから夜に死体はみれないといそいそとベッドに戻る。怖くてろりろりしたりすれば、それを聞いた友人が「ろりろり、って幼女でもいたの?」と見当違いなことをいってくるに違いない。ろりろりくらい知っておけよな、全く。ロリータ・コンプレックスとは何の関連性もございません。いや、ないのでございます(ございませんという表現は正しくないらしいが、正しい表現を使ったお詫びほどうっとうしくてわざとらしく腹が立つのだから仕方こそ有るまいに)。
シャープペンシル『クルトガ』を使って死んだらしい。そんな断片的な情報で死に片側からないが、わかってしまった方がグロテスクなので、警察も子供に粉薬を飲ませるがごとくオブラートにつつまねばならないのかもしれないな、とちょっとばかし(しかし「ばかし」、という表現にも「少し」という意味があるのに何故この表現には誰もいちゃ紋を付けないんだろうと少し明石は考えていた)考えてみる。
まあ、それも哀憐にいわせたら『偽善』なんだろう。
桜のように風雅な姿をしていながら、針葉樹のごとく凍てつく樹氷の哀憐。まず名前に良い字がない。哀れみ憐れむ。嘲笑の渦中に放り込まれたような名前。それこそが彼女の情緒を形成したのだろうか?まあ、今となってはどうでも良いか。
そういえば、彼のことを全く知らぬ訳ではなかったな。橋本も倉敷も哀憐から名前ばかり伺っていた気がする。
ただひとときに聞く分量には到底思えないのに、いつしかそういう話をした気がする。
作品名:偽善者賛歌06「来留咎」 作家名:フレンドボーイ42