小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
山田文公社
山田文公社
novelistID. 22228
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

『犬、エゴ、殺し方』【掌編・文学】

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
『犬、エゴ、殺し方』作:山田文公社

 野放しになっている犬を捕まえるために、肉をばらまく事にした。

 倉木町には捨てられた犬を預かり販売している業者の施設がある。この辺りは畑や田んぼしかなく、隣家の間隔もかなり広い。そのために犬の転売業者が目をつけて施設を建てた。しかし、やがて転売業者は廃業し施設内の設備管理が悪かった為に、多くの犬が逃げ出した。多くは県の保険所や警察、町内会や消防団と連携して捕まえたが、多くの犬は山へと逃げ込み、時々、山から下りて町を徘徊するようになった。
 そして先日、不幸な事に祖母が野良犬に噛まれた。30針以上も縫う大けがを負った。私は急遽病院へ駆けつけて、寝ずに祖母に付き添った。しかし傷を悪くさせて、苦しみうなされながら祖母は息を引き取った。

 事件は起きたが警察も自治体も誰も何もしようとしない。だから私は早期退職依願届けを出して退職金を受け取り、この倉木町へとやってきた。祖母の命を奪った犬共を始末する為に、復讐する為にだ。
 
 あの手この手といろいろ試したが、そのどれもが上手くいかなかった。しかし、ある方法を思いつき、肉をばらまく事にした。

 犬は肉を見つけると仲間を連れてやってきた。実は網を仕掛けており、肉に群がった所へ網を落として捕まえる仕掛けだった。見事に大きな網は犬共を捕らえた。犬共がもがいて逃げようとするところを、棒で殴りつけた。犬の悲鳴が上がるが構わずに殴り続けた。渾身の力を込めて打ち据えた。鈍い感触が手に伝わり、犬の悲鳴が上がる。だが私は容赦しなかった。
 どれぐらいの時間が経ったのだろうか、私は汗を全身にかきながら、肩で荒い息をしていた。網の中では舌をだらしなく出して死んでいる犬が3匹いた。私はその犬を右足で踏みにじった。

 それから私は何度もその方法で犬を始末した。しかし、どこからかマスコミが私の行動を写真撮影したらしく、週刊誌に棒で犬を打ち据える写真が掲載されていた。私はそのことを会社の元同僚から聞いた。

 私は手にした週刊誌のあまりの勝手な記事に手が震え、壁へと投げつけるほどに憤慨した。記事では私が愉快的に犬を殺してまわっていると書かれていた。しかも餌付けしたのも私となっていた。
 しばらくするとマスコミが大挙して押しかけてきた。また動物愛護団体と称する者達がやってきた。誰も彼もが勝手な言い分を押しつけてきた。しかもたちの悪いことに、自分たちの建前の偽善ばかり話して、こちらの話を聞く耳など持っていなかった事だ。
 さんざん非難して高説を垂れて悪態をついて帰る者を、私は憎悪した。

 騒がしいので、しばらく休もうと思ったが、私は夕方に再び餌をまき犬を集めた。犬共が集まり、網で捕らえて棒で打ち据えて残り一匹になった所で、男3人と遠くで女2人が現れた。
「ヤメロこの人殺しめ!」
 体格の良い男が私を羽交い締めにしながら叫んだ。どさくさに紛れて、細い男が私を殴りつけた。もうひとりの男は犬を逃がそうとしていた。女達もそれを手伝っていた。
「人でなしめ! 生き物の命を何だと思っているんだ!」
 私はふりほどこうとしながら怒鳴った。
「やめろ! 犬を網からだすな!」
 女と男は懸命に網を持ち上げて犬を逃がそうとしていた。
「イザベラ、ジョーンズ早く彼らを助けるんだ!」
 どう見ても日本人にしか見えないのだが、羽交い締めにしている男は犬を逃がそうとしている彼らに叫んでいた。
「大丈夫だ! エリックすぐに彼らを救う」
 犬はどんどん網の端へと向かっていく。
「馬鹿やめるんだ! お前ら」
 私の叫びに、何もしていない男は言い放つ。
「悪いね、君のストレス解消の為に彼らを殺させる訳にはいかないんだ」
「そうだ、人でなしの貴様の好きにはさせないぞ!」
 羽交い締めにしている男も加勢した。
「良いか! 良く聞け馬鹿共、その犬共は長い間檻で閉じこめられて、人間を憎んでいるんだ、それを逃がせばどうなるか判っているんだろうな」
 私の叫びに彼らは耳を傾ける様子はなかった。犬はもう網の端から顔を出そうとしていた。
「逃げろ! お前ら!」
 しかし、彼らは聞く様子はなかった。網から出ようとする犬へ手を差し出したのは、女の一人であった。
「大丈夫、もう怖くないからね」
 そう言いしばらく撫でていると、犬の唸り声が聞こえた。
「大丈夫、もう何も怖くないから、ね?」
 女の声は次の瞬間に悲鳴へと変わった。犬が女の首もとに噛みついたのだ。電光石火で女二人の喉もとを噛み千切り、男の足首に噛みついていた。
「馬鹿野郎! 離せ、逃げろお前達!」
 しかし、羽交い締めにしている男は力を緩める様子はなく、目の前に呆然とたっている男も犬の方を見たままで硬直していた。そして噛まれている男は半狂乱で痛みを訴えて叫んでいた。
 やがて膝が落ちた男の首もとに犬は噛みつき、男は死んだ。
 犬が唸り声をあげてこちらへと向かってくる。その様子をみた目の前に立っている男は、逃げ出した。しかしそれ以上の早さで犬は追いかけて言った。背後で悲鳴があがる。
「おい、いつまで私を捕まえてるつもりだ!」
 すると背後の男は力を緩めた。私は振り向きざまに男を殴り飛ばした。
「ふざけるな!」
 足下の棒を拾いあげて、先ほどの男の足首に噛みついている犬めがけて棒を振り降ろした。二、三度振り下ろすと犬の目標が自分になったと知る。唸り声をあげて威嚇してくる。手に握った棒が汗ばんでくる。犬との睨みあいがしばらく続いた。
 先に動いたのは犬の方だった。しかし犬が飛びかかってくるより早くに私は棒で犬を打ち据えた。殴った反動で何度も叩いた。何度か犬は飛びかかってきたけれど、私の打つ棒が早かったために犬は近づけなかった。
 しばらくすると犬はきびすをかえして走り去っていった。
「た、助かった」
 足首を噛まれた男はそう言い座り込んでしまった。
「恵子も知美も和義も死んでいる!」
 悲痛な叫び声を上げたのは私を羽交い締めにしていた男だった。
「どうしてだよ! なぁ、小松さん答えてくれよ!」
 足首を噛まれた男に羽交い締めをしていた男は近付いていく。
「結城くん、すまない」
「ふざけるなよ! お前のせいでみんな死んだだろうが!」
 羽交い締めにしていた男、結城は足首を噛まれた小松を責めていた。
「お前らが邪魔しなければ、だれも死なずに済んだんだよ!」
 耐えられなくなった私が怒鳴ると二人は私を見た。
「だいたいなんだ、良く事情も知りもせずに首を突っ込みやがって! お前ら言ったな! かわいそうな犬たちだと? じゃあ俺のばあちゃんは何なんだ! かみ殺され死んだ俺のばあちゃんは何なんだよ! かわいそうな犬にかみ殺されたばあちゃんは何だ? あんたらみたいに手をだして死んだわけじゃないんだぞ! 道をただ歩いていただけで、襲われてかみ殺されたんだよ!」
 二人は黙って俯いている。
「いろいろな所に掛け合ったさ、国にも自治体にも、でも誰も何もしなかった! 俺は最後まで苦しんで死んだばあちゃんに何もしてやれなかった! 言ったなストレス発散だと、ああ、そうさ復讐してるんだよ! 肉親を殺されたからな! まだ山奥には犬共はたくさんいるんだよ!」