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風邪引きさんの本音【星降る夜】

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「寒い」
「まぁ寒いよな」
 教室には行って来るなり暖房直撃のその席に陣取った昴はそのまま机に懐いた。
 外は雪がしんしんと降る真冬の天気。この冬一番の冷え込みだと言う空を見上げながら、隣に座った隼人がぼやく。
 昴はこんな日に何でテストがあるんだろうとかじかむ手で教科書を取り出した。
 大学1年の12月。最後のテストは外国語。テスト自体は簡単だけれども如何せん天気が悪すぎた。
 あちこちで電車が遅れ、知り合いから連絡を受けた生徒が教壇に臨時で設けられた遅延者リストに書いていく。最早その数は今日集まるはずの半分に達しようとしていた。クリスマスなのに難儀な事だとぼやく声が聞えてくる。
「外国語試験って、夏もなんかなかったっけ?」
 教科書をぺらぺらとめくりながら隼人が首を傾げる。
「――あ、そう台風だったよな」
 前の席に座る知り合いがそうだったと、振り返った。
 あぁ頭がボーっとする。暖房のせいかな。
 昴は辛うじて動く頭で考えた。


 *****


「よくもまあ、あの熱で試験できたよお前」
 試験を早々に終わらせて退室した後、ふらふらと歩いていた昴は隼人に抱えられるようにして隼人の部屋に連れ込まれた。
 なんだよーと呟くのもめんどくさくて、その腕に縋るままベッドに投げ込まれる。
 耳に体温計を突っ込まれて、その熱を見てみれば、なるほど一気に具合が悪くなった。
 39度って何度だっけ。
 どうりでふわふわすると思った。
 冷えピタを貼られながら、テストできたの、と聞かれた昴は勿論、と頷いた。
「ふん、あんなのおれにしてみれば赤子の手を捻るようなもの」
 二人の取っていた外国語は英語。
 しかも授業は某有名な過去に飛んでしまう話を字幕無しで見続けるそれ。
 その映画が元々大好きだった昴は一言一句、英語文まで覚えている。
 予習なんかし無くったって楽勝な授業だった。
「お前今日実家に帰る予定じゃなかったの」
 でかい図体に似合わずかいがいしく看病をする隼人に、昴は不思議そうに聞いた。
 もうぼちぼち乗ると言っていた新幹線の時間だった。
「――この雪で運休だぜバカヤロー。なんで雪国の電車が止まるんだよ」
「そっか……」
「だからお前は俺に大人しく看病されてろ」
 いつもは冷たくて、苦情を言う隼人の掌が、今日は随分気持ちよく感じた。
 寝てしまえと隼人に瞼を押さえられれば、先ほど飲んだ薬のせいか、昴はすうっと眠りの渕へ落ちていった。 


 *****


 昴が隼人と出会ったのは、大学の入学式だった。
 最初にひょろ長い男がいるな、とやたらと目に付いた男がいた。
 周りと比べて凄く大きかったわけでもない。
 ただ、昴の眼に飛び込んできたその緊張した面持ちの男が、なぜかずんずんと自分の隣まで歩いてきて、いきなり聞いてきたのだ。
「ここ座っていい?」
 200人は入る大教室で、まだまだ席も開いている中でなぜ自分の隣を選んだのか分からなかった。後で聞いてみたら『だって、なんか昴目立ったんだよ。いや違うか。眼に飛び込んできた』とかいうどこかで覚えのある返事が返ってきて驚いた記憶がある。
 それがきっかけでつるむようになった。趣味が似ているわけでも無く、ただ入学式の後のガイダンスで隣に座った彼は、実は住んでいるマンションがフロアまで一緒だったと言うオチがあるのだけれども。
 とにかくそんな感じで仲良くなったのだ。
 そして、恋に落ちたのは1年生の夏。
 恋が実ったのは、つい先日の事だった。  

 あーもーおれって幸せなんだかどうだかわからない。
 きっと隼人が実家に帰るのが寂しくて熱とか出しちゃったのかもしれない。
 情けなくて寂しくて、熱でなんだか分からなかった頭は混乱して、気づけば、隼人にゆすられて眼を覚ましていた。
「大丈夫?魘されてたけど」
 気づけば部屋は真っ暗で、ぺちぺちと窓を雪が叩く音がした。しつこい雪はまだ降っているらしい。隼人が心配そうに覗き込んでいて、その手がすっと目元をぬぐって、ようやく自分が涙を流している事を知った。
「はやとが」
「うん、俺が?」
「はやとが実家帰っちゃうの寂しいのかもしれない」
 熱に浮かされるまま夢の最後に思ったことを呟けば、隼人はなんだかやたらと嬉しそうな顔で笑った。
「電車動いて、昴も動けるようになったら、一緒に帰るんだよお前も」
「え……?」
「電話で話したら、父さん達がそうしろって。お前んち帰っても誰もいないんだろ?」
 展開の速さについていけないけれど、とにかく頷く。昴の実家は唯一の家族の母親が海外赴任中で誰もいない。
「熱とりあえず下がったら病院行って、そんで俺の実家に一緒にいこ」
 何度か電話で話したことのある、隼人の両親を思い出す。
 迷惑をかけるわけにはいけないとか、久しぶりの家族水入らずなのに水を差すわけにはとか、年末に失礼じゃないのかとか色々浮かんだけれど。
 昴は掛け布団を引き上げて、頷いた。
「早くよく寝て、直しなさい」
 お前が好きだって言ったあれもこれも、全部用意して待ってるって、母さんが言ってたよ。
 髪をかき回すように撫でられて昴はまた、眠りについた。


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 シリーズ展開予定。
 星降る夜シリーズ。