三年。春。
三年。春。
季節は春。桜の花が満開になり、桜並木は淡いピンク色の花びらが埋め尽くす。
流れる風は枝を揺らし空一面を桜の花びらが舞う。
辺りにはまだ着なれない制服を着て、学校へ向かう学生が見られる。
俺、川端 竜司は高校2年生である。そして、少し浮かれていた。
この年で初めての彼女が出来たのである。その彼女も自分の事が好きだったという。
俗に言う両思いである。その日の昼の事だった。
いつも昼食は屋上で食べていた。屋上には俺以外の人はあまり来なく、一人だった。
丁度、食べ終わった頃だった。
────少しいいかい?
後ろを振り向くとグレーのハット帽、紳士服にステッキと如何にもな格好をした
六十代前後の男性がこっちを見ながら立っていた。
学校の教師とは見えなく、実際に見た事も無かった。
「ええ、どうぞ。」
男性は竜司の隣に座り空を見ながらこう話し始めた。
────私は、君位の時に恋をした。その時まで恋などした事は無かった。
その子は静かで目立ちもしない消極的な女の子だった。
クラスの中でもその子の存在を知らない者も居るほどに。
だけど、その中でも頑張ろうとして失敗をしていたりしていた。
私はそこに惹かれたのだろう。その日から私はその子を目で追っていた。
その時の私は臆病だったんだろう。気持ちを伝えられなかったんだよ。
そして、高校三年生の終わり頃。恋を引きずって一年位だ。
あの子には彼氏が出来たという噂が流れた。
その子はあまり目立たない存在だったから、噂は驚きの一種でもあった。
その時私は、後悔をした。何故気持ちを伝えなかったのだろうと。
臆病な自分を嘆き悲しんだ。とうとう気持ちを伝えられずに三年が過ぎた。
そしてたまたま高校時代の友達が家の訪ねてきて
彼女はその彼氏と結婚するという事を聞いた。
その時の私はもう諦めていたのかもしれない。失望はそれほどなかった。
その時は彼女の幸せを願っていたからね。
そして、今に至るという訳だ。私はもう恋は出来ないだろう。
君は幸せそうだね。今の彼女は好きかい?
「ええ、心から。」
────そうかい。なら、手放さない事だよ。私の様になってほしくないからね。
その時の男性は晴れ晴れしく、温かい表情だった。
────この話を話したのは君が初めてだよ。こんな爺の話を聞いてくれて有り難う。少年
その日は学食でパンを購入していた。屋上で食べるときはいつもの事であるからだ。
まず、パン類以外は食堂で食べなくてはいけないというルールがあるからだ。
そして、ごみを捨てようと席を立った。
「あの。」
名前を聞こうとして振り返った。だがもうそこには男性の姿は無かった。
立ってから二秒。その内に立って屋上から出るのには不可能なことだった。
そこには座った痕跡は無く、ただ漠然と椅子が並んであるだけだった。
その男性はその後も姿を見せなかった。
だんだんと記憶は薄れてそれが現実だったかもあやふやだった。
だが、消えなかった物はあった。それは彼の言葉だった。
そして四年。結婚した。高二の春に出来た、彼女だった。
そして、その時思い出した。あの男性が結婚を知らされたのも、
高校を出てから三年の事だった。そして自分も高校を出て三年の頃だった。