小話
まだそんなに歳が離れているだなんて思っていなかったんだもの。
年下だって、知ってたら、こんなことに、
「…なってなかったと思ってるんだけど」
「いや、無理じゃね?」
ぼくの膝の上に頭を乗せて完全にくつろいでいる君があっさりとその思いを叩き切った。
前屈みになるよう指示をして、届く距離になるとゆっくりと手を伸ばしてぼくの頬を撫でる。
そのぬくもりに若干胸の鼓動は早くなる。
「だってアンタ、俺のこと超好きじゃん」
なんでこう、偉そうかな。
大体ぼくの方が年上で、ぼくのことをもう少し敬ってもいいと思うんだけど、どちらか言うとぼくの方が君を凄いなと思ってばかりな気がする。
「俺のそばにいるとすんげー安心してるじゃん」
「だって、それは事実なんだもの。凄く気が楽なのね」
「俺ばっかが喋りっぱなしになって自分が喋らずに済むから?」
「そっ、」
それだけじゃないから!
と言おうとしてやめた。何故、と聞かれたらなんと答えればいいのか分らないから。
しっかりしているようでいて、中身は全然歳相応の彼。少しの隙でも抉じ開けるように突いてくる。
そして物凄く恥ずかしいことを言わせようとする。それを見て、物凄く嬉しそうな顔をする。
「そう…だけど?」
「ふーん?ホントにそれだけ?」
今だってそう。バレバレの嘘に気づいてる。本音を引き出そうと笑ってる。
「どうでもいいじゃない」
「どうでもよくねーよ?」
上目遣いのその表情にまた、胸がぎゅっと締め付けられる。わざとだ。絶対にわざと。
ただでさえ前屈みになって顔が近いのにそんな顔をされると本当に困る。
す、と頬にあった指先が唇をかすめた。親指で優しく下唇をなぞられる。
「言って?」
わざと色気たっぷりの声色でぼくを挑発する。そういうところは変に大人。
いつでもどこでも大人と子供が混じってる。そういうところは少し嫌。
「………すきだから、に決まってるでしょ」
「ん。もっと前んなって」
これは命令。君が好きなぼくには逃れられることのない命令。
顔と顔が近くて、唇が、触れて、
ぬるりと割り込む舌に翻弄されて、
そのままソファに沈み込む。
今だって信じられない。
なんでこんな、年下相手にめちゃくちゃにされて溺れてるのかな、って。
ぼくにはないものを持っていて、明るく振る舞えるそんな君がなんでぼくを、って。
(あれ?)
「俺も超好きなんだよ、アンタが」
がっつくようなその瞳。ギラギラとしている。
まるで獣のように、ぼくをしっかり捕らえている。
(どっちが溺れてるのかな)
捕まえてるのは君?捕まってるのはぼく?
それとも?
「うん。知ってる」
(まぁ、いっか)
こうやって全身の力すべてを込めて想いをぶつけてくるところ。
そういうところ含めて君じゃないと味わえない。
きっと。