冬眠
見た目、信じられないような若さを取り戻す方法がある。
それが冬眠だ。
「では、君はその冬眠に関する物質、HP(冬眠特異的タンパク質)を人間の体内で作り出す酵素の開発に成功したと言うんだね」
「そうです。あとは人体実験を残すのみとなりました」
俺は少し高揚しながら、学部長に実験の許可を申請した。
シマリスにおいて冬眠する個体と、しない個体では
三倍以上、寿命に開きがあることが知られている。
二倍であれば冬眠中、新陳代謝が落ちた為とも言える
が、三倍以上というのは説明が付かない。
おそらく、眠っている間に生成される成長ホルモンが、
持続的に供給される為、体内のアンバランスが解消され、
結果、個体が若返るせいではなかろうか。
(※・・・内臓や筋肉、軟骨の修復等等)
しかし、学部長は首を縦に振らなかった。
「そんな無謀な実験に大学が協力できると思っているのかね」
と、いうのがその答えだった。
革新的な医学の発展には多少のリスクを覚悟しなければならない。
それすら許されないのであれば、どうして医学が発展するというのだ。
俺は地団太を踏みながらも、研究を中止せざるを得なかった。
ところが・・・、
どこから情報が漏れたのだろう・・・。
自称、“この世の桃源郷”という某・独裁国家から、
人体実験をしてみないかというお声がかかったのだ。
研究成果はすべて俺、個人のものとした上、200万ドルという多額の成功報酬まで約束されたとあっては、多少の危惧もあったものの応じない手はなかった。
だが、その人体実験の相手の名を聞いた俺は絶句した。
なんと、それは独裁者・○ @*♭♯★国王だったのだ。
もし、実験が失敗したら確実に殺される!
俺は今さらながら、このような場所に来た自分の浅はかな行動を悔いた。
とはいえ、ここは成果を信じ、落ち着いて行動するより手は無かった。
俺は実験の場に現れた○ @*♭♯★国王にうやうやしく頭を下げると、
SFに出てくるコールド・スリープと冬眠の違いについて一応の説明をした後・・・、
「では王様、どのくらいの期間、冬眠されますでしょうか?」と、尋ねた。
見た目にもくたびれた感じの国王は、少し考えた後で、
「私はこの国を守り続けねばならないし、後を継ぐ息子の事も心配だから、きっかり1年にしてもらおう」と、答えた。
俺は、人間版HPを体内で作り出す酵素を国王に注射すると、
徐々に体温を下げて行き、ついに冬眠状態を作り出した。
あとは冬眠期間を1年に設定するだけだったのだが、この時異変が起きた。
国王の側近が俺を押しのけ・・・、
目盛りを1万年に設定したのだった。
(おしまい)
作品名:冬眠 作家名:おやまのポンポコリン