輪廻転生
体を切り刻む所業は悪鬼の如し。よって下手人の榊原薔薇太郎を牛引きの刑に処す」
悪逆非道の限りを尽くした薔薇太郎にも最期の時が来た。
「けっ、死んでも生まれ変わって、また同じ悪さをしてやらあっ!」
呪詛の言葉を吐き続ける男に、奉行はさらりと言った。
「生まれ変わるんなら身も心も綺麗になって、人に役立つことをするんだな」
この時代の極刑、『牛引き』とは五体に縄をかけ、それぞれを猛牛に引かせてバ
ラバラにするという残酷極まりないものである。因果応報。流石の極悪人も、手足
も首も引きちぎられての無惨な死を遂げた。
ところが。
神の気紛れか悪魔の陰謀か。薔薇太郎の執念がそうさせたのかもしれぬ。時は移
り、平和な現代にその男は転生した。
(けけけけ。またこの世でも面白可笑しく暮らしてやろう。お、ちょうど前から可
愛いガキが―――)
純粋可憐な少女を毒牙にかけようとした、が。
(あ、あれ? 体が、う、動かねえ…?)
榊原薔薇太郎はその時、自分が野に咲く一輪の薔薇に生まれ変わったことを知っ
た。
ずしん、ずしん。
近づくと少女は自分の数倍も巨大である。
「まあ、きれいなお花。」
少女は歩みを止め、道に埋まった彼の身体を無理矢理引きずり上げた。
「ブチっ」
根の部分…薔薇太郎の下半身はちぎれ、刺や枝葉といった腕や肌の一部はもがれ、
血の代わりに樹液は流れる。彼は声にならない叫び声をあげた。
「いい香り」
少女は花の香りを楽しんだ後、好きな異性でもいるのだろうか、花占いを始めた。
「ブチ、ブチ、ブチィ」
(綺麗になって、人に役立つ…)
引き裂かれだした頭で、薔薇太郎はぼんやりと奉行の手向けの言葉を思い出した。
少女は占いの結果が気に入らなかったか、最後に花の頭の部分をブチリともぎ
取り、投げ捨てて去っていった。
<終>