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NAMEROU~永遠(とき)の影法師

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【第三部・第三章 風邪薬の効能】



目が覚めると、僕の目の前は真っ白のもふもふだった。
(……そっか、あのまま話し込んで寝ちゃってたんだ、)
僕は瞼を擦った。眼鏡を取って父さんに挨拶する。
「おはよう父さん、」
「――わうっ!」
白い毛皮の父さんが、同じく白い尻尾を振って一声上げた。
「見てよ、いい天気だよ、」
僕は立ち上がって将棋の盤を片付け、縁側の障子を開けた。差し込んでくる気持ちのいい朝の光を、胸一杯に吸い込む。
「わふっ」
陽を浴びて父さんも気分良さそうに目を細めた。それを見ていると、僕まですごく幸せな気持ちになる。
父さんがしゃべる犬の家庭はいまどき珍しくもないけど、しゃべらない犬を父親に持つ子供はそう多くない。男親は黙って背中で語るもの、そんな家族もあっていいじゃないか、僕は常々そう思う。なぜなら僕自身が父さんのことをとても尊敬しているからだ。
例え父さんがしゃべらない犬であっても、僕は父さんの愛をじゅうぶん感じてきたし、僕もまた父さんを愛している。たまに父親参観やなんかで暇ないじめっこたちから、――やーい、おまえの父ちゃん無口! とかなんとかからかわれる程度、僕には痛くも痒くもない。そんなことで僕と父さんの絆は揺らがない。間違いなく断定できる、この件について僕は相当自信がある、そんな自分が誇らしいくらいに、僕の中に、自分でも気付かなかった強い気落ちを湧き立たせてくれる、だから僕は父さんのことが大好きだ。
「……えーっ、言ってくれないんですか?」
「いやだから先生、」
縁側で伸びをしている僕と父さんの前の庭を、離れを貸している新婚さんがイチャイチャ通りかかった。見慣れたいつもの光景だ。
「おはようございます、」
僕は二人に声をかけた。
「あっ、おはようございます!」
奥さん(?)の方はすぐに朗らかな返事を返してくれた。天パのダンナは、ちょいとしゃくるように首を竦めただけだった。……まぁいいけど、あの人はああいう横柄なキャラだから、背伸び運動で深呼吸して僕もいちいち気にしない。
「聞いて下さい、ひどいんですよ、」
奥さんの先生が長い髪をなびかせてたたっと縁側まで駆けてきた。基本、とても腰が低くていい人なのだが、若干年齢不詳気味、見た目はダンナと同じくらいなのに、ダンナの方じゃ先生、先生って十は相手が年上みたく接しているのが解せないが、……ま、あまり詮索しないでおこう、人にはそれぞれ拠所無い事情というのがあるわけだからして。
「行ってらっしゃいのハグして愛してるって、それくらい新婚夫婦なら当然でしょう?」
先生は納得いかないというように淡い色の唇を尖らせてみせた。
「……はぁ、」
僕は愛想笑いを浮かべながら曖昧に相槌を打った。――カンベンしてくれ、朝からまったり濃い風邪シロップでも強制的に飲まされてる気分だ、……いや、ホントウ悪い人じゃないのはわかってるんだ、あの目付きの悪い天パ野郎のダンナはともかく、こっちの先生はホントにいい人なんだ、いい人なんだけど、……ただ、度を超えた天然というか、そーいや勤めている大学校でも空気を読まずにちょいちょい過激な学説をブチ上げて、大家のウチにも特高モドキ(時代設定どーなってんやら)がガサ入れに来ることしばしばだったり、……ウン、よーするにアレだ、先生はちょっとばかし個性がキョーレツにユニークなだけで、いいじゃないか、そういう人がいても、ウチの父さんだってカテゴリとしてはかなり特殊なしゃべらない犬なんだし。
「……いやだから俺が言ってんのはーぁ、」
後ろ頭を掻きながら天パが先生に弁解した、……そろそろヨソでやってくんないかなァ、ボクは少々げんなりした。隣で父さんが、後ろ足でかしかし首を掻いた。
「何つーか、言わなくたってわかるでしょって、」
テレ隠しなのか何なのか、大振りなジェスチャー付きに天パが言った、
「言ってくれなきゃ伝わらないことだってあるんですっ」
先生はついと陽に透ける髪を揺らしてそっぽを向いた。
「……。」
天パのダンナがまたガシガシ天パを掻いた。僕は半眼で世界を見た。
「……わかりました、」
とうとう折れたらしいダンナが、先生の肩を背中側からそっとハグした。――おいおいアンタら、だいぶ前からだけどボク(と父さん)の存在まるっとムシですかい! 僕は思ったが、もはやツッコむ気力すら起きない。父さんが大口開けてあーふと欠伸した。
ダンナが先生の耳元に顔を埋めた、
「先生、あ――」「あっマ夕゛オさんっ」
電光石火でダンナの腕を擦り抜けて先生がきゃっきゃと駆けて行った。
「……」
しばらく空を抱かされていたダンナがキッと僕を睨み付けた。僕は咄嗟に横を向いて口笛を吹き、――ナーンも見てませんよー、のポーズを取った。父さんは早々にでーんとケツを向けていた。
「マ夕゛オさーんっ☆」
小走りの先生が小袖の手を振る(……先生はウチでマ夕゛オさんの姿を見かけるといつ何時でもソッコー飛んでいくという謎の習性があった。何だかもう、DNAレヴェルでカラダに染み付いたインプリンティング、みたいなものであるらしい)、
「これは先生、オハヨウございます、」
少し前からウチに住み込みのコーチをしているマ夕゛オさんが箒を履く手を止めて言った。……さてここで少し説明をしなければならないだろう、そもそも住み込みのコーチ、っていうのは――、
「アイヤーーーーーっっっ!!!」
と、気合いのこもった奇声を発しながら、母さん(……。)が屋根から裸足で庭に降りてきた。