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NAMEROU~永遠(とき)の影法師

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【第三部・第五章 罪作りの純情】



意識を取り戻した僕は砂浜に倒れていた。手のひらにひと房のワカメを掴んで……、んっ?
ワカメと一緒に、何か紙切れのようなものを握り締めている。僕は強張った手のひらをもう
一方の手で開いてみた。
――……せいきゅうしょ? 眼鏡がないのでうんと顔を近付けて薄れた殴り書きの文字を読み取る。――……コンシェ……、ル……じゅ? じぇ?
「……、」
――まぁいい、大方海上の浮遊ゴミでも掴まされたんだろう、僕はワカメと紙切れをまとめて砂に突っ込むと立ち上がった。少し離れた場所に転がっていた眼鏡のレンズが、太陽光を反射してギラリ光を放つ。拾い上げて蔓を耳に掛け、再度辺りの景色を見渡す。まるで世界が生まれ変わったように僕の目にクリアに映った。
海を渡った遥か彼方には、マ夕゛オさんと言葉を交わしたあの島が見える。
――マ夕゛オさんは、この浜のどこかにいる、
僕は確信した。一度は惹かれ、反動で強く反発した魂が心の奥で呼んでいるのだ、僕はその直感を信じた。
浜を上がった高台に洞窟の入口らしきものが見えた。僕を呼ぶ声は遠くあの奥から聞こえてくる。裸足のまま、僕は砂を踏み締めて洞窟への道を登った。
道中覚悟は固めていたつもりだ、洞窟前の岩に腰掛け、新聞を広げたマ夕゛オさんの姿を見ても僕は動じなかった。
「……」
顔の前から新聞をどけたマ夕゛オさんが、僕にグラサン越しの一瞥をくれた。通りすがりに僕は呟いた。
「父さん、お茶だよ」
実際には僕はお茶など持っていなかった。けれどマ夕゛オさんのマボロシは、僕の言葉に虚を突かれたような、戸惑いのような苦笑いを髭面に湛えて呆気なく消えた。
(――僕の父さんになりたかったわけじゃないのか……?)
洞窟の入口アーチを潜りながら僕は思った。
洞窟の中は曲がりくねった道だった。ところどころ、岩の隙間から光が差しているようで思ったほどの暗闇ではなかったが、しかし全体がぼんやりと薄暗い灰色で心許ない気分になるのは否めない。奥に進むほど、湿った苔のむっとするようなにおいもこもっている。
しばらく行くと、狭い通路を塞ぐようにまた別なマ夕゛オさんの影が立っていた。俯いた片手にグラサンを押さえ、眉間には厳しい縦皺が刻まれている。
「オージーうぇ〜いっ☆」
僕はYOメン気取りでビートを刻み、でたらめな挨拶をかました。よれよれ半纏姿の叔父上のマ夕゛オさんが噴き出した。
「シャケらっきょーーー♪♪♪」
洞窟に絶叫の残響を残して叔父上のマボロシは消えた。
(……やっぱり、叔父さんになりたかったわけでもないんだな、)
九十九折りの道を下り、長く続いた階段が再び登り道に入る。やがて行く手に、開けた広い空間が見えてきた。
「……」
僕は足を止めた。最後に待ち構えていたのはコーチのマ夕゛オさんだった。
「今度は血縁関係じゃないんでね、」
――手加減はせんよ、静かな、よく響く声にマ夕゛オさんが言った。僕はすうっと、吸い込んだ息を吐いた。顔の前に上げた両手をやや変則気味のハの字に構える。――いざ、僕は唇に秘宝のタントラを唱えた。
「ハセガ○ジュンっ!」
「……フフッ、甘いな」
マ夕゛オさんの髭面に余裕の笑みが浮かぶ。――わかっているよ、序の口だってさ、
「はつねみくっ」
「おやおや、何のことやら、」
マ夕゛オさんはW〜hy?のポーズで僕との距離を詰めてくる、
「……、」
――しまった選択ミスだったかっ、……何だ、次は何を言えば良いんだっ? テンパった頭の中が真っ白だ、……おっさんの天使、おっさん世代どストライクの固有名詞といったらっ!
「……はっ、はやせミサっ?」
僕はいまひとつ自信がなかった、みくみくと同じだ、リアルじゃなきゃ、ヴァーチャルじゃダメか?
「……、」
が、予想に反してマ夕゛オさんが一瞬怯んだ、――……今だ、僕は一気に畳み掛けた、
「は⊃゛きリおなっ」
「――うっ、」
マ夕゛オさんが胸を押さえてよろめいた、――次がとどめだ、これで効かないわけがない、逸る心を押さえつけ、僕は噛み倒さないことだけをひたすらに肝に念じた、
「これで終わりだっ! 聞けっ! ハラ夕゛トモЭっ!!!」
「――!!!!!」
もんどりうったマ夕゛オさんの身体が砂地にどうと音を立てて倒れた。
「マ夕゛オさんっ」
決着は付いたのだ、砂に足を取られながら僕はマ夕゛オさんに駆け寄った。
「……やぁ、やるじゃないか」
――完敗だよ、苦しげに息をつく肩に、マ夕゛オさんはハハハと乾いた笑いを貼り付けた。こんなときでもカッコつけて、片手にクイとグラサンを持ち上げてみせるあの仕草まで、まるでこうして僕がここに辿り着くことを、予め何もかも知っていたかのように。
「……っひどいじゃないですかっ……!」
僕はわななく声を押し出した。マ夕゛オさんに会ったら、もっと容赦なくギッタンギッタンに罵倒してやろうと思っていたのに、胸が震えて声が詰まって、少しもうまく言葉にならない。
「――……、」
拳を握り締め、顔を上げて僕は叫んだ、
「ワカメなんかっ、どーだってよかったんだボクはっ、ただ、ひとこと言ってくれれば、そしたら喜んで全部マ夕゛オさんにあげたのにっ……!」
言いながら僕の頬を涙が伝った。――ああ、僕の胸をこんなにもずうっと詰まらせていたものはその思いだったんだ、マ夕゛オさんを恨んでいたからじゃない、……ただ寂しくて、情けなくて、そんな自分が惨めでたまらなかったんだ、僕はようやく合点した。
「……それじゃダメなんだよ」
しゃくり上げる僕の肩越しにマ夕゛オさんが言った。
「……、」
僕は涙を拭いてマ夕゛オさんを見た。
「あのワカメを君から穏便に譲り受けることに価値はない、君から奪い取ってこそ、初めて私にとって意味のある行為だったんだ」
グラサンを押さえ、淡々と口にするマ夕゛オさんの顔は険しかった。僕はぐいと眼鏡の下を拭った。
「……よく、わかりません、」
僕は正直な乾燥を口にした。だけどマ夕゛オさんにも事情があったことだけは飲み込めた。あのワカメ奪取が闇雲にボクを傷つけるための行動でなかったことも、……そりゃ、多少はボクの願望含みであったかもしれないが。マ夕゛オさんの表情が少し緩んだ。
「そうだな、わからない方がいい、」
髭面に薄笑みを浮かべてマ夕゛オさんは言った、「じゃないと私のような寂しい大人になってしまうからね」
「マ夕゛オさん!」
僕はマ夕゛オさんに詰め寄った。
「……ここに辿り着くまで、僕はいろんなマ夕゛オさんに会いました。僕の父さんだったり、母さんの叔父さんだったり、かと思うと赤の他人の住み込みコーチだったり……、でも、どれもこれも僕の空想のマ夕゛オさんで、僕は本当のマ夕゛オさんのことを何も知らない……、」
僕は真っすぐマ夕゛オさんを見た。マ夕゛オさんも僕を見た。