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365日の奇跡

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春 1



「弘樹!」
廊下でそう呼ばれて振り返ると去年仲が良かった淳がいた。
「俺たち、クラス離れちゃったな」
「うん。まぁ7分の1だし仕方ないよ」
「弘樹のクラス仲良いやついる?」
「いや、ほとんど話したことない人ばっかだよ」
「だよなー俺もだよ。今まで通り昼飯、一緒に食おうな?な?」
「うん、わかったよ。」
「あ、そういえば弘樹、橋詰と同じクラスなんだって?」
「橋詰?」
「あれ、知らない?なんかいつも一人でいる背がでかくて…」
「あぁ、前の席の人だ。」
「前の?あ、そっか。弘樹の名字は原田だもんなー」
「それでその橋詰君がどうかしたの?」
「いや別に何かある訳じゃないけどいつも一人だしよく学校休むし噂のマトってわけ」
「淳、相変わらずそういうの好きだね」
「違うよ。弘樹が興味無さすぎるんだよ」
「他人の噂話なんて聞いてもいいことないよ。大体は嘘なんだから」
「ま、そりゃそうだけどこれも一種の娯楽だよ」
「他人を貶める材料にさえなりうるものが娯楽なんて悪趣味だね」
「そう厳しいこと言うなって」
「ま、いいけど」
「おっと噂をすれば…だ」
その淳の声で視線を前に向けると向こうから橋詰君が歩いてくるところだった。
橋詰君はどこにも視線を移すことなく前を見たまま教室に入っていった。

その日の放課後春休み中に借りていた本を図書室に返しに行くと窓際の一番端の席に橋詰君が座っていた。

「橋詰君、隣いいかな?」
この部屋には俺たち以外誰もいないという状況が俺に声を掛けようという気を起こさせた。
普段は私語厳禁の図書室も他に誰も居なかったら別だと思う。
橋詰君はゆっくり視線をあげると俺を見て言った。
「どうしても座りたいなら構わないけど他に席はいっぱい空いてるよ」
「どうしても座りたいから座るよ」
そう言って俺は橋詰君の隣に腰を下ろした。橋詰君は奇妙なものを見るような目で俺を見ていた。
「今、嫌味の通じない奴だなって思ったでしょ。生憎嫌味に動じるような可愛らしい性格はしてないんだ」
「顔はこんなに綺麗なのにな」
「なに、俺の顔って橋詰君の好みなの?」
そこまで言うと橋詰君は諦めたように溜め息をついた。
「で、原田君は俺に何の用?」
「あれ、俺の名前知ってるんだ」
「知ってるよ、クラスメイトのしかも後ろの席の奴の名前くらい」
「あんまりクラスの人に興味無さそうだから知らないかと思った」
「そうだよ、興味はない。でもさっきHRで担任が名前呼んだだろ。」
「呼んだだろって一回で覚えるなんて凄いね」
「で、だから何の用だよ」
「別に、特に用はないよ。ただ話してみたかっただけ」
「それなら止めることだな。俺は誰とも仲良くする気なんてないし時間の無駄だ」
「でも今は付き合ってくれてるじゃん。本当はこういうの嫌いじゃないんでしょ?」
橋詰君は溜め息を吐くと本に視線を戻してしまい、それから先は何を話しかけても答えてくれなくなった。俺は諦めて本の返却を済ませ図書室を後にした。

作品名:365日の奇跡 作家名:鏡香