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みとなんこ@紺
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Today's Military DOG Report

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*chapter3







「おや、お前またここに来たのかい」
寒さも和らいできた昼下がり。
いつもの場所で寝転んでいる間に、どうやら少し眠り込んでいたらしい。仰向けに寝転んだ腹の上に何か軽いものが乗った感触で目が覚めた。
ゆっくりと目を開ければ、黒い毛並みの毛玉が乗っていた。ここしばらく同じ場所で会う、昼寝仲間だ。
ポンポン、と軽く頭を撫でてやれば、お返しに鼻先を舐められた。まだ子犬のようだが、よく慣れている。
ちょっと良いかな、と身体を起こせば、ころん、とそのまま転がり落ちた。と、思ったらすぐに起き上がって構え、と周りを跳ね回っている。
・・・特に何もしたおぼえはないのだが、妙に懐かれているような。
「・・・お前。私は別に何も食べる物も持ってないよ?」



「たぶん、腹は減ってないと思いますよ」



先程、目を離した隙にパンを取られてしまいましたから。
と。すぐ傍で聞いた声が聞こえた。
こちらもこの辺りでよく行き会うので、特には驚きはしないが、・・・相変わらず、神出鬼没な方だ。
「先日は助かりました」
そういって笑う顔は、まるで悪戯に成功した子供のようだったが、さすがにそれを言うのは失礼だろう。
以前ここでかち合った時、この人の捜索隊にとぼけておいた件のことらしいが、この辺は格好の休息場所なので、隠しておきたいのは自分も同じだ。その時から、ちょっとした共犯になっている。
「・・・今日はいいのですか?」
問えば、黒髪の上官は僅かに肩を竦めて笑った。
「いい加減息も詰まりそうだったので、少し。適当なところで切り上げて戻りますよ」


*


「今日は餌付け狙いですか」
「あまり触らせて貰えないもので。置いておくとまだしも、手ずからは食べてくれないんです」
「・・・パンは食べさせても構わないと思いますがサンドウィッチはあまりオススメしませんよ」
「それは中尉にも怒られました」
ところで、犬に懐かれるのには何かコツでもあるんですか?と嫌にマジメな顔で問うて来るものだから、思わず笑いが出てしまった。
階級ははるか上、歳は息子くらい、のこの東方司令部の司令官の当面の悩みはこの子犬らしい。
「・・・別に何もないとは思いますが、実は家にも犬がいましてね。たぶん、その臭いがするんだと思いますよ」
「今までそんなに動物に嫌われた事があまりなかったので、中々ショックで」
つい、意地になりますね。
「ホークアイ中尉のしつけの賜物ですかな。この子は優秀な捜索隊でしょうから」
貴方に懐かれたら懐かれたで中尉も困るんでしょう。そう言って笑えば、彼は複雑そうな顔で大きく息を付いた。


――――変わった方だと思う。
自分のように、勤続年は長いがほとんど階級を上げることのなかった、窓際のような役職につく私にも普通に接してくる。
階級主義の軍の中では、年齢よりも階級がものをいう。長年勤めていた中で、階級を嵩にきた年端もいかない若者が無駄に権力を振りかざす様をいくらでも見てきた。
しかし、この若くして大佐にまで上った彼はそうではなかった。一歩軍務から離れると、学者然としたところはあれどそこらにいる普通の青年とそう変わりないのに。
年に見合わぬ落ち着きや物腰を培ってきたもの、いやそうならざるを得なかった事に、少しばかり苦く思うものもある。
近くに行儀よく座ってこちらを見上げている子犬にそろりと手を伸ばしても、するりと逃げられて微妙にしょげている様や、背負った肩書きや。そんな華々しい経歴からは想像もできないような今の姿もまた、彼の一面ではあると思うけれど。
「・・・そろそろ見納めか」
独白のつもりだったそれに、彼は顔を上げた。
「あと一月でしたか」
「長いようで、最後はあっという間だった気がしますがね」
「資料室の主が居られないようになると大変です。今度は一から探し始めなければならないと思うと、気が滅入りますね」
「・・・まぁ、私にとってはそこだけでしたからね・・・」
それしかすることがなかったからだが、彼はそうはとってはいないようだった。
「・・・准尉は東のご出身でしたね」
「ああ・・・小さな村ですよ。あの腕白な鋼の坊主の村はリゼンブールでしたかな?その隣の辺りで」
「退役されてからはどうされるのですか?」
「学校の真似事をしている昔ながらの友人がいましてね。来ないかと声をかけられてはいるんですが・・・」
良いですね、と彼は穏やかに笑った。
「・・・教鞭をとられる方が似合うと思いますよ」
穏やかに笑うその横顔に、それは貴方も人のことは言えないと、返す事は出来なかった。

そろそろ戻ります。
そう言って立ち上がった彼は、ほんの短い間、目を細めて空を仰いだ。


「――――マスタング大佐」


振り返った彼に、これが最後になるだろう敬礼を奉げる。
渡せる言葉は私の中にはなく、ただ言葉に乗せずに何かに祈るのみ。
彼は身体ごと向き直り、す、と背を伸ばした綺麗な敬礼を返して、笑みを浮かべた。








その後、彼と、彼を選んだ何人かの姿が東方司令部から消えた。
中央からの招聘を受けて発ったのだと聞いたのは、それから3日後のことだった。












私は恙無く残りの日を過ごし、やがて故郷に戻った。
この国はまだ様々な事象に揺れている。
そして人づてに伝聞にその名が上るたびに思い出すのだ。


最後に彼の見せた、穏やかならぬ焔の潜む笑みを。




Fin