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みとなんこ@紺
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Today's Military DOG Report

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*chapter2






「あー・・・ヒマ」

小さなボヤきが聞こえて、彼はふと顔を上げた。くわえタバコがトレードマークな、隣の隊の隊長殿だ。昼を過ぎての一番のどかな時間帯に負けそうらしい。身体がだいぶ傾いでる。
そのボヤきを聞きつけたか、黒髪に眼鏡の小柄な曹長が小さく笑った。失礼ながら、何で軍人になったんだろ、とよく評されている穏やかな面に柔らかい笑みを浮かべている。
「僕らが暇なのは悪いことじゃありませんよ」
「まぁなー・・・」
でもこうまで暇だと鈍りそう。
確かに実働部隊の面々にしてみれば、ヒマだろう。
それでも書類仕事も減らないのが何か不思議なものだが。しかし、普段からあまり綺麗でない少尉の机の上は今はすっきりだ。もうそういうのも全部ないらしい。・・・もしくは、上の認可待ちなのかもしれないが。(しかもその可能性は物凄い高い)
「この間みたいなバーゲンセールは勘弁して欲しいけど、こー何もなさすぎると、すっげぇダレる」
「あー・・・あれは真面目に凄かったですよねー・・・。まれに見るあんな連発、もう遠慮したいんですけど」
「月間記録更新も間近だってファルマンが言ってたな」
そこまでのは良いから、でも何かないかね。
「巡回はいいんですか?」
「今週はブレダんとこの班担当なんだよな」
もういっそ演習でも良いから何かないかね、と。
自分としてはあまり賛同できないことをブチブチと言っていると。
「そんなにヒマなら前言ってたあのマニュアルでも作ったらどうだ?」
「あ、お疲れ様です」
ハボック少尉の相棒、ブレダ少尉がのっそりと帰ってきた。巡回から戻ってきたところなのか、別に暑くも無い部屋なのにうっすらと汗ばんでいる。
「・・・なんかあったのか?」
「帰り間際に引ったくり騒ぎにぶち当たった」
「おめっとさん。強制ダイエットメニューにちょうど良かったんじゃね?」
「よけーなお世話だ」
いつもの軽口を叩いて、あーやれやれ、と席に座り込んだブレダ少尉は、襟を開いてそこらの書類を扇子代わりにして仰いでいる。その追いかけっこがよっぽど効いたらしい。
「で、とっ掴まえたんだろ?そいつ」
「ああ」
「調書とんねーの?」
「ファルマンが、ヒマだからやりたいとさ」
「どこも一緒か・・・」
あーあ。ボヤきながら机に突っ伏したハボック少尉の後ろ頭を眺めつつ、ブレダ少尉はそう言ってられんのも今のうちだって、と口元をゆがめて笑った。
「・・・なんで?」
「お前は忘れてるみたいだけどな・・・」


「たいちょー、シフト決まりましたよー」


同じく暇暇なこの空気が伝染しているのか、緊張感のかけらもない様子で一人の下士官が司令室に入ってきた。
「なんのだっけ?」
ヒラ、と手を上げて問えば、えーと、と手にした書類に視線を落とす。
「南方司令部との定例合同訓練ですね」
「そーいや、もーそんな時期か・・・」
中央の四方に配置された各司令部だが、基本的には各司令部個別で動いている。
が、稀に管轄を跨いで発生する案件に対処するため、混成部隊で作戦本部が置かれる事もある。そういった場合の連携の確認他のため、主に隣接する司令部同士で規模の大きな合同訓練が行われる事もある、のだが。
「・・・今年、うちだっけ?」
「ああ。そろそろだろ」
そういった合同訓練の総管轄は、各方面司令部の持ち回りで役割が回っている。基本的に佐官クラス以上の人間がその教官や監督を担うのだが。
・・・そういえば、前回の北との合同演習はホンット物凄かったなぁ・・・。
マジメに色々このまま北から帰れないかと思った。
そんな、これ以上思い出すとナーバスになってしまいそうな暗い記憶を心深くにしまい直す。
・・・美人は、怖い。どっちを向いても。



「教官誰になった?」
寒い記憶から意識を戻せば、ハボック少尉が渡された資料を眺めていた。ハボック少尉も結構散々な目にあっていたはずだが、そんな記憶はもう彼方なのか、あまり気にした風も無い。
えーと、と資料に視線を落とした伍長から出た名前は、ちょっと意外なものだった。

「マスタング大佐です」

あれ?そうなんだ。
普通、佐官でもこういった演習なんかには監督はまだしも、教官として大佐クラスの人間は出てこないはずなのに。
それは他の皆も思ったことなのか、それぞれ首を傾げている。
「・・・大佐って、ヒマなのか?」
「いや、決算資料作んなきゃいけねぇのに、またサボってて中尉に追いかけられてたぜ。しばらくは大人しくしてるハズじゃないのか?」
ホントしょうのない、と気楽に笑う。本来なら表立ってこんな軽口すら叩けないような立場の人のはずだが、あの人の気安さにのせられて、ほんとここでは好き放題言われている。
「まー、でも良いんじゃね?大佐だったら演習もきっと緩・・・」



ガタン!!



「・・・・・・ハボック少尉?」
その場にいた全員が音の発生源に注目した。
大きな音を立てて椅子を蹴倒して立ち上がったハボック少尉は、完全に顔色を失っている。
ざわり、と空気が揺れた。
ハボック少尉といえば、マスタング大佐の直属の部下で、東方司令部の実働部隊の中でも指折りの戦歴を上げている小隊長だ。普段から飄々とした様子で、現場でも滅多に揺れたことのない人のはず、なのだ、が。


「――――休暇だ」


「え?」
「オレ休暇まだ残ってたよな?とりあえず、そん時は休暇・・・いや、それじゃ甘いか。親父が死んだんで葬式!これしかねぇ・・・!」
・・・・・・何の話だろうか。
常に無い少尉の様子に、周りの面々も戸惑っている。
「どうしたんです、少尉」
「あー少尉も演習はヤなんですね。でもいいじゃないですか、大佐が教官だったら大丈夫でしょ」
軍曹がそこまで言ったところで、ハボック少尉はようよう顔を上げた。誰だ、この人。と思うほどには暗い顔で。
「・・・お前ら、あん人のこと知らねぇからそんな暢気な事言ってられんだ・・・」
重要な作戦中ですら滅多に見られない、2人の完全に強張った表情に、ようやく笑いあっていた面々が押し黙る。
「少尉・・・?」
ズドーンと地の底まで落ちているハボック少尉を横目で見て、これは役に立たんと判断したか、ブレダ少尉が重い口を開いた。
「・・・昔、俺らがまだ士官学校にいた頃の事だ。実地演習の教官には結構OBが来ることがあるんだが、その年はまだイシュヴァールの内戦終結直後でな。上のほうが出ずっぱりって事で、結構年の若い方にお鉢が回ってきたんだが、その時にやってきたのが・・・大佐だ」
「・・・オレらとそうたいして変わんねーのに、中佐拝命したあとだったよな」
「東部に赴任する直前くらいだったな」
ようやく顔を上げたハボック少尉も参戦し、で、と話は続く。
しかし改めて経歴を聞けば、その異様さが際立つ。数年軍に席を置けば、それがどれだけの事かしれようと言うもの。戦時の特例もあるとはいえ、普通ではありえない。他の面々にも伝わったか、皆押し黙る。
「そりゃイシュヴァールの英雄の噂は勿論聞いてたんだがな、あの人って見た目あれだろ。で、オレらもまーだまだ血気盛んなお年頃でな」
「中には軍閥出身の我がもの顔なバカもいたんだよ。で、そいつらがよせば良いのになめて突っかかってって」