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繋がったものは10

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翌日、多少の寝坊はあったものの、駅前でレンタカーを借りて動き出した。俺の嫁は、ちょっと腰がダルイとは言っているが、動けないほどではなかった。いつもの高速道路を走って、いつもより一歩手前で、別ルートへ進路を変える。

「え? こっちか? 」

「昼飯はサービスエリアでええか? 」

「俺、なんもいらん。寝かせてくれ。」

「寝かせるかっっ。ちゃんと、俺の相手せんかいっっ。」

 負担が大きいのは、嫁のほうだが、それでも、せっかくのドライブに、話し相手もいないなんてのは寂しい。と、言ったら、嫁はせせら笑いやがった。

「サービスエリアでイルカちゃんのぬいぐるみ買おたるから、それと話とけ。」

「待てぃ。それこそ、俺、おかしいおっさんやないかっっ。」

「おかしいと思ってなかったんか? おまえ。」

「そういうこと言うんやったら、本気出す。それでええな? 」

「え? あ、ちょっちょおー待て。」

「問答無用じゃっっ。死にさらせぇ。」

 俺は、元々走り屋なので、相手がなければ、徹底的に走る。オービスと警邏中の覆面さえ警戒していれば、問題はないし、そういうので掴まったことは一度たりとない。この道は直線コースが多くて、オービスも少ない。だから、覆面だけが問題だが、それも背後から現れたらスルーすればいいだけだ。アクセルを踏み込んだら、俺の嫁は、顔を引き攣らせた。このスピードは怖いとかぬかしやがるのだ。

「うわぁーごめん。すまんっっ。俺が悪かった。」

「もう、あかんエンジンかかった。メシ食わんでもええわ。すぐやからな。」

 免許は、付き合いが始まる前から持っていたが、肝心のクルマがなかった。就職して、友達のクルマでドライブした時に、俺の本性を知って、嫁がびっくりしていた。親元に帰ったら、そちらでは乗り回していたから、運転自体は慣れていたし、技術もそれなりだと自負していた。だのにクルマなんてものに、ほとんど乗った経験のない俺の嫁は、スピードというものが怖かったらしい。本気で止めてくれと言われて、傷ついたが、今は無視することにしている。

「途中で降りるから、それまで好きにさせてもらう。」

「あほーーーぼけーーー。」

「けけけけけ・・・・おまえのヘタレ声はクるなあ。あー楽しい。」

 どんなヤクザなおっさんの恫喝声でも怯まないはずの俺の嫁が、びびり声を上げているのは楽しい。こういうのは、旦那の特権だ。後で、蹴りと拳骨を食らったが、それぐらいで俺はめげない。そこから、のんびりドライブに切り替えて、目的地を目指した。御堂筋の彼女からの特選情報で、ここの宿泊が30パーセントオフで、おまけに近くの遊園地がタダというチケットを貰ったからだ。

 お陰で、一番ええ部屋に泊まれて、ええお食事を食べられるコースが取れた。まだ、季節的に少し早いのが、ポイントであるらしい。





 沢野のほうに、顧問契約している弁護士から連絡が入った。浪速家との交渉は、全部、弁護士がするように手配が終わったということだ。財産放棄については、両親も知らなかったらしく、驚いていたが、母親のほうは、息子の意見に同意はした。ほぼ家出同然に出て行った長男に財産は渡したくないと言うことだった。父親のほうは、複雑な顔をしていたが、何も口を挟まなかった。

 浪速水都からの正式な依頼を受けました、と、弁護士は委任状と、自分の名刺を取り出して、今後について説明して辞してきた。今後は、弁護士を通して、放棄についての折衝はさせてもらうので、浪速水都を探して直接交渉することは禁じてきた。下手に直接接触すれば、そちらが不利だということも、ちゃんと説明してきたので、今後、居場所が判明したところで接触はしてこないだろう。

「ほおう、それでよろしいわ。きっちり財産の取り分は分捕ってや? なんなら、他の取れるもんは取ってくれてええで? 余分は、先生の成功報酬やからな。」

 もちろん、沢野は放棄させるつもりはない。何年か先になるだろうが、その時がきたら、きっちりと取れる分は取るつもりだ。それを水都に渡すつもりもない。これは、こちらで仕掛けた遊びで、水都は最初からいらないと言っているからだ。

「けど、わしが死んだら、全部バレてまうやろうなあ。はははは・・・・まあ、よろし。あちらさんが先か、わしが先か・・・ええ勝負や。」

 現在、沢野が買収している会社の株券も、水都名義にしているものが半分ある。これらの売買も、沢野が勝手にしていることだ。水都は、まったく与り知らない。たぶん、自分が実印なるものを持っているということすら知らないだろう。水都の実印は、沢野が作って保管しているからだ。

 吉本が、法的な手続きは、全部しているから、水都は、そういう正式な書類に必要なものなんて、まったく知らない。昔から、そういうことには無頓着だったので、沢野はこれを利用した。堀内も実印のことは知っている。実際、役所で実印登録してきたのは、堀内だからだ。

 類縁のない水都なら、どんな罪を被せようと、問題はないと思っていたのだが、残念ながら、強力な縁が発生して、そちらの計画は頓挫した。公務員の旦那がいては、勝手に消すわけにはいかなくなったからだ。旦那共々消したとしても、そちらには類縁があるから探されてしまう。それでは、計画が破綻するから諦めたのは、水都が、まだ二十代前半の頃だ。

 それから、水都の実印は沢野が握ったままだ。まあ、お陰で、浪速家の問題も、こちらで勝手にできる。もし、バレたとしても、水都に財産が増えるだけで、害はないのだから、感謝してもらわなあかんと、沢野は考えている。





 夕方、無事に旅館に辿り着いて、カニ尽くしなる料理は堪能した。しばらく、いや、今シーズンはカニなんか見たくないと思うほどに堪能した。カニの刺身はうまかった。カニ酢もええとしよう。その後の、カニすきと焼きカニと陶板蒸しのカニは、さすがに、気分が悪くなるほどだった。全てがカニというのは、やはり限度がある。

 食事処から戻って、敷かれていた布団にダイブすると、ふたりして、うはーと息を吐き出した。酒は飲まないので、その分、カニを詰めたが、限界まで詰めすぎた。

「今、腹捌いたら、カニうようよしとるんやろうな?」

「・・やめてや・・・水都・・・想像する・・・」

「さすがにすごかったわ。」

「うん、明日は洋食食いたいわ。」

 腹がこなれるまで、しばらくじっとして、もう一度、温泉に入ることにした。ここは、海に向った温泉があって、暗くても波の音が聞こえる。宴会時間だから、あまり人はいなくて、のんびりと二人で入った。

「さて、夜のお楽しみといきまひょうか? 」

「カラオケか? 」

「はあ? どんなボケ? 」

「昨日したやつか? 」

「そらそうやろう。せっかくやから、心置きなく。」

「はいはい。」

「昨日みたいなんがええな。」

「はいはい。」

「心こめてくれませんか? 水都さん。」

「あとでな。」
作品名:繋がったものは10 作家名:篠義